新たなホットスポットもある
そのために何をすべきかを考えるとき、私はやはり「測ること」という原点に常に立ち返ることが大事だと思っています。
原発事故から時間が過ぎる中で気になるのは、放射能に対して極めて過敏な反応を示す人たちと、そこから逃げたい、忘れて生活したいと情報を自ら遠ざけて生活している人たち、という意識の二極化が進んでいることです。
しかし現実にそこで暮らしている人、暮らさざるを得ない人が多くいる以上、事故後一貫して大切なのは正しく放射能と向き合い、どのように生活をすれば被ばくを減らすことができるかをみなで一緒に考える姿勢でしょう。
安全なのはどのような場所か、食べ物についてどのようなことに気をつければいいのか。空間線量だけではなく食品や内部被ばくの数値を地道に測り、結果を分析して指摘していく。分かることと分からないことをはっきりと伝えながら、放射能汚染に対する不安やストレスを軽減させ、同時に被ばくも減らしていく。
それを実現するためにはこの二年の間に放射性物質による汚染の実態がどのように変化していったかを知ること、そして、一人ひとりが科学的な視点を持って放射能汚染と向き合うことが有効です。
例えば同じ地域で作成した一昨年と昨年の汚染地図を比較すると、空間線量が全体的に落ちてきている一方、毎時一μ~二μSvを超えるような新たなホットスポットが出現していることが分かってきました。これは山々を汚染した放射性物質が雨によって流され、堆積物として溜まっている個所があるからです。新たな汚染個所は川の蛇行域に多い。このように放射性物質は移動しますから、福島県に限らずいつどこで高い線量が計測されるかは分からない状況が続いています。
次に食品による内部被ばくについては、人によって大きな違いがあることが問診によって明らかになってきました。
問診では原発事故後の生活を遡り、当時からの行動パターンがどうであったかをゆっくりと聞いていきます。
その人がどのような食品を食べているかを追って調べていくと、食品に対して注意しているグループとしていないグループとでは、被ばく量に明らかな差が出てきます。食品に気を遣っている人たちは、スーパーで売られているものを買い、自家生産の作物をほとんど食べていない。対して自家栽培の野菜を無防備に食べている場合、一昨年よりも内部被ばくの量が増えてしまっている方も多いのです。雨によって放射性物質が移動していることからも分かる通り、汚染された作物がどこから出るかは分かりません。計測された食物を意識的に食べることが、いかに大事かが分かるでしょう。
また、二本松市民を対象とした被ばく線量調査では、小学生の四五%が一昨年と同じかそれ以上の被ばくをしています。年間被ばく推定線量に置き換えてみたところ、一mSv以上の子供たちは七七・一%。放射線量が下がっているにもかかわらずそのような結果となったのは、事故直後は外遊びをしていなかった子供たちが、昨年からは除染されたグラウンドでの体育が再開され、外で遊ぶようになっていることを表しています。
ただ、子供たちの体力は一昨年来非常に低下しており、肥満率も上がっている。これは非常に悩ましい問題です。そのなかで子供たちをどのように外で思いっきり遊ばせればいいのかを考えると、地域の線量の環境をしっかりと把握し、遊ぶ時間や場所を区切っていくなどの手法が必要になってくるからです。
被ばくを抑えながら、日々の生活をいかに送るか。その答えは被害の現状、放射線との向き合い方を学ぶ中で導き出されていくものです。