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  • [著者]稲泉連(いないずみ・れん/ノンフィクション作家)
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「フラガール」に就職/谷合瑠莉|震災後、福島に移住した人たち|特集 二年後の被災地にて 「新潮45」13年3月号



 昨年四月、映画『フラガール』で知られる「スパリゾートハワイアンズ」に、四人の新人ダンサーが採用された。四八期生と呼ばれるその中に、八王子市出身の谷合瑠莉さんがいる。
 彼女が同社の採用試験に応募したのは、高校の卒業を控えた三月のことだった。
「小学生の頃、家族と一緒にスパリゾートに来てショーを見たんです。そのときのことがずっと胸に残っていました」
 フラダンスを習い始めたのは五歳のとき。母親が趣味で通っていたフラダンス教室へ一緒に行くうち、自分も踊ってみたいと思うようになった。
「海や花や雨、表情も含めてそれぞれの振付には意味があります。最初は先生の振付を見て覚えるだけでしたが、そんな一つひとつの動きの意味が分かるようになってくると、踊るのが本当に楽しくなってきたんです」
 高校時代はダンス部に所属した。ただ、大好きなダンスを将来の仕事にしたいと思っても、そのような仕事はなかなかない。そんなとき胸に甦ったのが、スパリゾートハワイアンズの思い出だった。
 その頃、同リゾートのメイン会場は地震によって再開の目途が立っていなかった。そんななか、フラガールは「全国きずなキャラバン」で全国を公演で回り、ショーによって仮設住宅の人々を励ます様子がテレビでも報道されていた。その報道を見て彼女は思いを強めたと言う。
「両親は心配しました。特に父は原発事故の影響や地震のことを悩んでいました。でも、私がどうしても行きたいと言うので最終的には許してくれて。おじいちゃんが『いわきは東京とそんなに変わらないし大丈夫そうだ』と調べてくれたときは、母も安心して泣いていました」
 彼女が研修期間を経て初めて舞台に立ったのは昨年七月。「緊張で頭が真っ白」だったが、会場で両親が見守るなか、フラとタヒチを踊った。
「いつかソロダンサーになるのが夢です。赤い衣装で踊るオテアというタヒチなのですが、センターで一人だけが白い衣装を着て踊るんです」
 スパリゾートハワイアンズに来てから、津波の被害にあった小名浜に研修で一度だけ行った。テレビでしか見たことのなかった津波災害の現場に立ったとき、どれだけ多くの人たちがここで悲しい思いをしたのだろう、と心に痛みを感じた。
 ショーには震災復興のツアーで訪れる人々も多い。だから「少しでも元気を与えられるような踊りがしたい」と思う。
 今年一月一六日からショーで披露されている新しい曲に、「アイナ ふくしま」というものがある。
 〈ふと隣に目をやれば 同じ気持ちを抱いた仲間 つないだ手 離さないで 輝く未来はきっとある〉
 アイナとはハワイ語で故郷の意味だという。新人フラガールの一人として毎夜、いまの彼女が踊る曲だ。
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