【図8】 「魔術師の杖を呑み込むモーセの杖」 『預言者の書』 ペルシャ 1577年 ニューヨーク市立図書館スペンサー・コレクション蔵
モーセはイスラーム教でも重要な預言者です。魔術師を打ち負かすモーセの図は、イスラーム写本でも大事な場面【図8】。蛇というよりも、もはや竜のようにダイナミックなモーセの杖は、杖ばかりか魔術師まで呑み込んでいます。
【図9】 「蛙の災い」と「疫病の災い」 カタルーニャ 1330-1340年頃 マンチェスター ジョン・ライランズ図書館蔵
しかしファラオは心変わりせず、そのためエジプトには10の災厄が下りました。その災厄とは、①ナイル川の水が血に変わる「血の災い」、②蛙の群れがあらゆるところに侵入する「蛙の災い」、③ぶよが人と家畜を襲う「ぶよの災い」、④「あぶの災い」、⑤あらゆる家畜を殺す「疫病の災い」、⑥「腫れ物の災い」、⑦「雹の災い」、⑧「蝗の災い」、⑨「暗闇の災い」、⑩「最後の災い」です。【図9】のユダヤ教写本では、上段に「蛙の災い」、下段に「疫病の災い」を描いています。首のところまで蛙や蛇が這いのぼる王さまたち。薄笑いがこわい。
【図10】 「雹と蝗」 『パンプローナの聖書』 パンプローナ 1200年頃 アウグスブルク大学図書館蔵
そして【図10】は、「雹の災い」と「蝗の災い」を描いた『パンプローナの聖書』の挿絵です。激しい稲妻とともに雹が降り、人や家畜、木々や農作物が失われました。それでもファラオはイスラエル人の解放を拒んだので、こんどは蝗の大群が飛来し、雹の害を逃れた農作物を食べ尽くしました。この絵は、被害者を描かない手法が独特です。
その後さらに、3日間の暗闇が続く「暗闇の災い」が起きても、ファラオは考えを変えませんでした。イスラエル人の解放は、イスラエルの民以外のすべての初子が死んだ「最後の災い」の後でした。ユダヤ教最大の祭事「過越祭」は、この時の救済を神に感謝する祭です。キリストの「最後の晩餐」は、過越祭のディナーでした。