「乳と蜜の流れるところ」 『モーセ六書』 カンタベリー 大英図書館 11世紀初め
イギリスのヘレフォードという町に、中世に描かれた大きな世界地図があります【図1】。まんなかのT字形の色の濃いところが地中海。その右斜め上、たらこ形の部分が紅海とペルシャ湾です。中世の地図は、エルサレムが世界の中心で、エデンの園がある「東」を上に描きました。紅海の辺りをよく見ると、エジプトを脱出したモーセとイスラエルの民が、40年間さすらった道のりが赤い線で記されています。出発地はガザのピラミッド。中世の頃は「ヤコブの納屋」と呼ばれていました。紅海を渡った(!)後も赤い線はぐねぐねと曲がりくねり、彼らの道程の困難さを示しています。
【図1】 『ヘレフォードの世界地図』 イギリス ヘレフォード大聖堂 1285年頃
飲み水のない乾いた土地では、モーセが岩を杖で叩き、清水が湧きでる奇蹟を起こしてイスラエルの民を救いました。「岩を打って水を出す」もしくは「ホレブの岩」と呼ばれる主題で、後にカタコンベの壁によく描かれました。楽園で振舞われる「救いの水」の象徴だからです。
神がイスラエルの民に約束した地、カナンに定住するためには、先住者との戦いもありました。若い戦士ヨシュアの活躍により勝利し、ようやく長い旅が終ったのです。「ヨシュア」とは「神の救い」という意味。モーセが後継者に指名した人物で、イエス・キリストの「イエス」は「ヨシュア」のギリシア名です。