【図7】 フラ・アンジェリコ 《キリストの変容》 サン・マルコ修道院フレスコ壁画 フィレンツェ 1440-42年
ルネサンス以降の画家たちは、図像伝統と聖書の語句の正しい解釈との間で葛藤し、角の形に発する光を描くようになりました。フラ・アンジェリコの《キリストの変容》【図7】では、画面左にモーセの頭が浮かんでいます。
モーセの生涯は、キリストの生涯と重ねられました。そのため、ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂のように、聖堂内壁の両側にモーセとキリストの生涯を対比させる場合もありました。とはいえ、モーセに関する図像は、①赤ちゃんのモーセがエジプトの王女に拾われる場面、②神がモーセの前に初めて姿を現した「燃える柴」、③エジプトからの脱出を描いた「紅海渡渉」、④荒野で苦難と救済を示す「岩から水を出すモーセ」、⑤神との契約である「十戒の授与」―という五つにほぼ限られています。次回、ユダヤ写本も参照しつつ、その波瀾万丈な生涯を詳しく見てゆきましょう。