【図2】 「十戒を受け取るモーセ」 石棺彫刻 ローマ出土 300-325年頃 ヴァチカン博物館蔵
ギリシア語訳聖書では、先の箇所は〈δεδόξασται ἡ ὄψις(栄光に輝いていた)〉とあり、誤訳はありません。そのため、ギリシア語訳聖書が読まれていた古代末期の図像には、モーセの角はありませんでした。例えば、ヴァチカン博物館にある4世紀の石棺彫刻【図2】では、画面左上では、豊かな髭をたくわえた男性が「十戒」が記された板を受け取っています。
【図3】 「十戒を受け取るモーセ」 『ムティエ=グランヴァルの聖書』 トゥール 840年頃 大英図書館蔵
【図4】 「十戒を受け取るモーセ」 サン・サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院聖堂身廊天井画 11世紀末
すでにラテン語訳聖書が使われていたはずなのですが、9世紀の『ムティエ=グランヴァルの聖書』挿絵【図3】にも、11世紀末のサン・サヴァン・シュル・ガルタンプ聖堂の天井壁画【図4】にも、角のあるモーセはいません。