【図8】 「ヨセフとポティファルの妻」 『ウィーン創世記』 シリア 6世紀前半 ウィーン国立図書館蔵
「ヨセフとポティファルの妻」の物語は、後にキリストの受難を暗示すると解釈されるようになりました。誘惑する妻は「ユダヤ教」、残されたマントはキリストの「肉体」、するりと逃げるヨセフはキリストの「魂」を象徴します。『ウィーン創世記』の挿絵はその最も古い作例のひとつです【図8】。ここでは寝室で起きている事よりも、糸を紡いだり、子どもをあやす微笑ましい日常の情景がおもしろい。
【図9】 ヨセフ物語の画家 《ヨセフとポティファルの妻》 ミュンヘン 1500年頃 アルテ・ピナコテーク蔵
16世紀以降はエロティックな場面を描く格好の主題となります。その描き方はさまざまです。偽の訴えの物証となるヨセフのマントは必ず描かれますが、ポティファルの妻の「誘い方」が見どころ。【図9】は、「誘う」というより「襲う」感じ。背後から羽交い締め。真剣すぎる目つきが怖い。画面右奧には、捕縛されたヨセフがいます。