【図1】 「天使と格闘するヤコブ」 ジローナ大聖堂回廊柱頭 12世紀前半
「神に勝つ者」すなわち「イスラエル」という呼び名の由来となったこの場面は、肉体をもたないはずの天使(あるいは神)と肉弾戦を行うという、じつに不思議な逸話です。中世の解釈では、人間の心のなかの「善悪の戦い」と考えられ、ロマネスク期の柱頭彫刻に多く登場します。前回挙げたジローナ大聖堂の回廊の彫刻でも、梯子を昇り降りする天使の傍らで、ヤコブは天使ととっくみあっています【図1】。聖書本文中には「神」とあるので、翼が描かれない場合もあります。
【図2と3】 「天使と格闘するヤコブ」 ヴェズレー サント・マドレーヌ修道院聖堂柱頭 12世紀
ヴェズレーのサント・マドレーヌ修道院聖堂の柱頭では、胸ぐらを掴まれ【図2】、腿に蹴りを入れて逃げながら【図3】、ヤコブの要求通り祝福を与える天使の姿が見られます。ヤコブが猛って叫んでいるように見えるのは気のせいでしょうか。