【図4】 「天使と格闘するヤコブ」 ペトルス・コメストル著『聖書注解』挿絵 1372年頃 デン・ハーグ 本の博物館蔵
ロマネスク彫刻に比べると、ゴシック期の写本挿絵の格闘はおしとやか。美少年の戯れのような格闘場面も乙なものです【図4】。ゴーギャンの絵が有名だけれど、わたしはモーリス・ドニの描く《天使と格闘するヤコブ》が好きです。遠い夏の日の思い出のような光がいい。木々が残照に輝くなか、青い服を着た華奢な少年たちが踊っているかのように取っ組みあっています【図5】。
【図5】 モーリス・ドニ 《天使と格闘するヤコブ》 1893年 キャンバス 油彩 個人蔵
そんなヤコブが、11人の息子たちのうち最も愛したのはヨセフでした。愛妻ラケルの生んだヨセフには裾の長い晴れ着を着せて可愛がりました。異母兄たちはそれを妬み、穏やかに話せないほど憎みました。なのに、幼いヨセフは自分の見た夢を兄たちにこう話しました。
「聞いてください。わたしはこんな夢を見ました。畑でわたしたちが束を結わえていると、いきなりわたしの束が起き上がり、まっすぐに立ったのです。すると、兄さんたちの束が周りに集まってきて、わたしの束にひれ伏しました。」兄たちはヨセフに言った。「なに、お前が我々の王になるというのか。お前が我々を支配するというのか。」兄たちは夢とその言葉のために、ヨセフをますます憎んだ。(「創世記」第37章6節~8節)