【図3】 「エサウとヤコブの誕生」 『サラエボ・ハガダー』バルセロナ 1350年頃 ボスニア・ヘルツェゴビナ国立図書館蔵
リベカが子を生んだのは、イサクが60歳の時のこと。双子でした。兄のエサウは全身が毛深く、長じて狩りの名手となりました。14世紀のユダヤ教の旧約聖書注釈『サラエボ・ハガダー』の挿絵【図3】では、リベカのスカートの中から双子が出てくる場面と、エサウが狩りをする場面が同一画面に描かれています。イサクは狩りの獲物が好物だったので、エサウを愛しました。リベカは、一見、穏和なヤコブを可愛がりました。
ある日、ヤコブがレンズ豆の煮込みを作っていたところに、狩りで疲れきったエサウが帰ってきました。腹ぺこのエサウは食べさせてくれと頼みます。ヤコブが食事と引換えに「長子権」を要求すると、エサウは早く食べたいあまり、「ああ、もう死にそうだ。長子の権利などどうでもよい」とあっさり譲ってしまいました。
さらに、ヤコブは母と共謀して、老いて盲いた父イサクを騙し、エサウが受けるはずの「祝福」を奪い取ります。【図3】の下段は、ヤコブがイサクの祝福を受けとる場面です。 自身の死期が近いと悟ったイサクは、エサウを呼び、狩りに行かせます。死ぬ前にエサウの獲物で作った料理を食べて、エサウに祝福を与えるつもりでした。そのやりとりを脇で聞いていたリベカは、その祝福を弟ヤコブのものとするために、夫を騙すのです。エサウが狩りに出ている留守中に、ヤコブにエサウのふりをさせます。ヤコブは「エサウのように毛深くないから騙せない。逆に呪いを受けるのではないか」と乗り気でなかったのですが、「その時はお母さんが呪いを引き受けます」とまで言いました。ヤコブにエサウの晴れ着を着せ、腕や首には子山羊の毛皮を巻きつけます。家畜の子山羊で急ぎ作った肉料理を持たせて、イサクの枕元へ急がせました。