アート

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煮込み料理と涙 「イサクの嫁取り物語とヤコブの祝福」|キリスト教美術をたのしむ 金沢百枝
 6世紀に描かれた『ウィーン創世記』【図1】の一葉に、城壁に囲まれた町から離れた場所で、水瓶を担いで歩くリベカの姿があります。瓶は空です。井戸端に横たわる半裸の女性は泉のニンフです。画面中央では、リベカが水の入った瓶を傾けてラクダに飲ませています。ラクダ10頭も、我先に水にありつこうと押し合いへし合い……。

【図2】 「イサクの嫁取り」 『アッシュバーナムのモーセ五書』 制作地不明 6世紀末から7世紀初め パリ国立図書館蔵
【図2】 「イサクの嫁取り」 『アッシュバーナムのモーセ五書』 制作地不明 6世紀末から7世紀初め パリ国立図書館蔵

 『アッシュバーナムのモーセ五書』の同場面【図2】は、ラクダの群れの動きが見事です。画面右上は、金銀財宝や衣装などの贈り物を携え、リベカのもとに到着したラクダ。11頭います。左下は、リベカの嫁入り道具とともにアブラハムのもとへ戻って来たラクダ。後列のラクダたちは長旅で疲れたのか、座り込んでいます。奥のラクダほど小さく描く、遠近法的な手法も見られます。
 画面中央が、従僕エリエゼルがリベカと出会う場面です。「この方こそ若さまの嫁!」と確信した従僕がリベカに贈り物を差し出しています。聖書には「重さ1ベカの金の鼻輪一つと、10シェケルの金の腕輪二つ」とありますが、この絵では耳飾りのようです。1ベカは5.7グラム、シェケルは10~13グラムほどですから、贅沢な品だったでしょう。リベカはそれらを身につけて帰宅したことが聖書の記述からわかります。
 画面左上の建物はリベカの家。兄のラバンが従僕を招き入れ、奥にいる両親を紹介しています。その下は宴卓。神の思し召しならば、と両親は結婚の申し出を快諾しました。従僕はリベカを連れてすぐに旅立ちます。
 感動的なのは、イサクとリベカが初めて出会う場面です。

(イサクは)夕方暗くなるころ、野原を散策していた。目を上げて眺めると、らくだがやって来るのが見えた。リベカも目を上げて眺め、イサクを見た。リベカはらくだから下り、「野原を歩いて、わたしたちを迎えに来るあの人は誰ですか」と僕(しもべ)に尋ねた。「あの方がわたしの主人です」と僕が答えると、リベカはベールを取り出してかぶった。僕は、自分が成し遂げたことをすべてイサクに報告した。イサクは、母サラの天幕に彼女を案内した。彼はリベカを迎えて妻とした。イサクは、リベカを愛して、亡くなった母に代わる慰めを得た。(「創世記」第24章63~67節)

 ギリシア語訳聖書『セプトゥアギンタ』(紀元前3世紀半ば~前1世紀)では、イサクは「散策」ではなく、「野原で物思いにふけっていた」と訳されています。リベカを娶ったのは、40歳の時でした。

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