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魂のかたち 「人間の創造」|キリスト教美術をたのしむ 金沢百枝
 「命の息」が吹き込まれなければ、これもただの泥の固まり。「生命エネルギー」の注入作業、すなわち「魂」をどのように描くのかが、この場面の見どころです。先述のヴェネツィアのモザイク画では、蝶の羽をもつ小さな裸体として描かれた「魂」が、生まれたばかりのアダムのもとに向かいます。

「命の息を吹き入れる」 サン・マルコ聖堂 玄関間天蓋モザイク ヴェネツィア 13世紀
「命の息を吹き入れる」 サン・マルコ聖堂 玄関間天蓋モザイク ヴェネツィア 13世紀

 ひらひら飛ぶ蝶をプシュケー(魂)とするのは、古代ギリシア・ローマの伝統的な表現です。このモザイク画は5世紀末制作の写本『コットン創世記』の挿絵を模写したことが知られています。

 こうした先人の知恵を拝借できない場合、画家たちは悩んだようです。聖書の記述に忠実に「息を吹き込む」表現もあります。たとえば、アルザスの女子修道院でランツベルクのヘラートという尼僧さんが記した『悦楽の園』の挿絵。

「人間の創造」 (左)「命の息を吹き入れる」(右)ヘラート・フォン・ランツベルク 『悦楽の園』(模写) アルザス 19世紀初め(原本1176~96年) パリ国立図書館蔵
「人間の創造」(左) 「命の息を吹き入れる」(右)
ヘラート・フォン・ランツベルク 『悦楽の園』(模写) アルザス 19世紀初め(原本1176~96年) パリ国立図書館蔵

 12世紀末に描かれた原本は1870年に焼失しましたが、19世紀はじめの描き起こしが残っています。図はその一枚。創造主とアダムのやりとりが秀逸です。図の左では、頭に手をあてがって造っている途中。アダムはまだ力なく、手はだららんとぶら下がっています。右では、創造主が「命の息」を吹き込む最中。両手でアダムを引き寄せて見つめ合い、「はああぁっ」。「クロレッツ」してると良いなあと密かに思うほどの近さです。

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