聖書注釈者たちがとくに困ったのが、第1章の「我々にかたどり」という部分です。唯一神のはずの神は、なぜ「我々」と複数形を使っているのか。多神教時代の神話の名残と思われるのですが、ユダヤ教でもキリスト教でも聖書(旧約)の語句は、すべて真実。唯一神ヤハウェの言葉ですから。中世ユダヤ教の注釈書『ミドラシュ』では、神が天使たちとともに造ったと解釈しました。創造の指揮は神さまがとったのですが、謙譲の精神から手伝ってくれた天使たちもあわせて、「我々」と記したと、やや苦し紛れに説明しています。それに対して、中世のキリスト教徒の神学者は「三位一体」を使ってこの難問を解決しました。「三位一体」とは、神には「父なる神」と「子なる神」と「聖霊」という三つの位格(ペルソナ)があるという、キリスト教特有の考え方です。神さまはひとりだけれど、三つあるから複数形。一休さんの頓知じゃないんだけどなー、とツッコミを入れたくなります。
そうした注釈を反映して描かれたのが、ナポリで14世紀頃制作された写本です。
12世紀の神学者ペトルス・ロンバルドゥス著『命題集』の一葉。「h」の文字のなかでは、後頭部にお面のような顔をつけた面妖な姿の創造主が、人間を制作中。表側の髯をたくわえた老人の顔が「父なる神」とすれば、背後の若者の顔は、「子なる神」に違いありません。背中の翼は、鳩として描かれることが多い「聖霊」でしょう。この創造主は玉座にでんと座ったまま、棒切れでつついて「泥」を成形しています。せめて手を使って欲しいなあ。
これと比べると、ヴェネツィアのサン・マルコ聖堂のモザイク画(13世紀)の創造主は、親身です。
作業用の(?)低めの玉座に座り、創造主みずから手を使って造作しています。この時のアダムの肌が泥の色なのも、注目すべき点でしょう。
そうした注釈を反映して描かれたのが、ナポリで14世紀頃制作された写本です。
「人間の創造」 クリストフォロ・オリミナ ペトルス・ロンバルドゥス『命題集』 ナポリ 14世紀 ヴァチカン教皇庁図書館蔵
12世紀の神学者ペトルス・ロンバルドゥス著『命題集』の一葉。「h」の文字のなかでは、後頭部にお面のような顔をつけた面妖な姿の創造主が、人間を制作中。表側の髯をたくわえた老人の顔が「父なる神」とすれば、背後の若者の顔は、「子なる神」に違いありません。背中の翼は、鳩として描かれることが多い「聖霊」でしょう。この創造主は玉座にでんと座ったまま、棒切れでつついて「泥」を成形しています。せめて手を使って欲しいなあ。
これと比べると、ヴェネツィアのサン・マルコ聖堂のモザイク画(13世紀)の創造主は、親身です。
「人間の創造」 サン・マルコ聖堂 玄関間天蓋モザイク ヴェネツィア 13世紀
作業用の(?)低めの玉座に座り、創造主みずから手を使って造作しています。この時のアダムの肌が泥の色なのも、注目すべき点でしょう。