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  • [著者]稲泉連(いないずみ・れん/ノンフィクション作家)
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南相馬「移住ボランティア」コミュニティ|震災後、福島に移住した人たち|特集 二年後の被災地にて/稲泉連 「新潮45」13年3月号



 前々日に降った雪が凍り、道路の所々で固まっている寒い日だった。窓から漏れる蛍光灯の白い光が、陽が沈むとともに人気のない歩道を照らし始める。
 福島県南相馬市原町のJR原ノ町駅近く、「インドアパーク」と名付けられたその建物は、病児保育の支援活動を営むNPO「フローレンス」が昨年八月に開設した「室内公園」だ。室内にはビニール製の滑り台やゴム製の遊具、絵本などが揃えられ、オーストラリア産の白砂を敷き詰めた砂場まである。子供たちの帰った後の室内は整頓され、滑り台から空気を抜く音だけが際立って聞こえていた。
「朝になって目覚めたとき、随分と不思議な街に引っ越してきちゃったなァ、とときどき思うことがありますね――」
 絵本スペースの椅子に座りながら、スタッフとして働く水口隆さんが言った。
「僕はここの二階の学習室で中高生に勉強も教えているんです。思えば、自分は南相馬の〇歳から一八歳までの子供たちの相手をしているんだな、って。市の線量は比較的低いとはいえ、ここの子供たちは『外で遊ばずにテレビゲームをしていなさい』と親から言われるような生活を送ってきました。初めて砂場で遊んだという三歳の子がいれば、線量が高めの場所を『もう慣れましたから』と走り抜けていく中学生がいる。今では公民館の駐車場が除染の車で一杯になっていても、それが全く不思議ではない日常のようにさえ感じられるんです」
 少し茶色に染めた髪をミュージシャン風に伸ばしている彼は、可愛らしいスタッフ用のユニフォーム姿のままだった。一見すると年齢不詳だが、聞けば一九七二年生まれの四〇歳。東京では地図製作の出版社に一三年間勤めたものの、会社の業績の悪化で希望退職。震災前は学習塾の非常勤講師をしていたという。もともとボランティアとして被災地に通ってきた彼は、昨年四月から南相馬市で暮らしている。しかし、なぜ彼はこの街に「移住」することになったのか。
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