「バト・シェバの水浴」部分 ジャン・ブルディション 『ルイ12世の時禱書』 トゥール 1498/99年 J. ポール・ゲッティ美術館蔵
巨人ゴリアテを打ち倒したダビデはイスラエル兵の隊長となり、勝利を重ねました。ユダヤの民は「サウルは千を討ち、ダビデは万を討った」といういいかたで、ダビデを讃えました。王のサウルはそれを聞いて激怒し、ダビデを妬むようになります。ゴリアテを討ったらダビデに娘を与えると約束していたのですが、渋り、姫が欲しければペリシテ人の「陽皮」100枚をとってこいと命じました。陽皮とは男性器の包皮のことです。ユダヤの男児は生後8日目の「割礼」で切除しますが、ペリシテ人にその習慣はありません。ダビデは100人どころか200人のペリシテ兵を討ちとり、陽皮を献上したそうです。姫のミカルはすでにダビデを愛しており、めでたく妻となりました。いっぽうサウルは「ダビデをいっそう恐れ、生涯ダビデに対して敵意を抱いた」のでした。
【図1】 「ダビデと楽師たち」 トゥール派 『シャルル禿頭王の第一の聖書』 詩編冒頭挿絵 846年 パリ国立図書館蔵
ダビデは竪琴の名手で、中世の頃は「詩編」の作者と見なされていました。王冠を戴き、竪琴を奏でる姿で描かれます。9世紀、シャルル禿頭王の注文によりフランク王国の宮廷で制作された聖書では、ダビデ王は4人の楽士にかこまれています【図1】。ダビデの両脇はローマ兵姿の側近たち。四隅には「枢要四徳」──思慮、正義、勇気、節制──の擬人像を描き、ダビデの美徳を讃えています。緋色のマントを翻すダビデの姿に、いまはなきロック・スター、フレディー・マーキュリーの面影を見てしまうのは私だけでしょうか。マントの下はなぜか全裸……。
【図2】 「槍を持つサウルと竪琴を弾くダビデ」 『ヴェンツェスラウス詩編集』 パリ 1250-60年 J. ポール・ゲッティ美術館蔵
ある時、ダビデがサウル王のそばで竪琴を弾いていると、サウルに悪霊が降ります。ダビデへの妬みが殺意に変わったサウルは、手にした槍でダビデを刺そうとします。この場面はバロック期以降盛んに描かれました。13世紀の『ヴェンツェスラウス詩編集』の一葉では、竪琴を爪弾く若いダビデを長槍で狙うサウルが描かれています【図2】。