【図7】 ヨアヒム・パティニール 《ソドムとゴモラの崩壊のある風景》 1520年頃 ロッテルダム ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館蔵
フランドル風景画の祖とされるヨアヒム・パティニールの絵では、ロトの妻は点景にすぎません。悪徳の町は、紅の空に浮かび上がる黒いシルエット。町を焼く炎は熾火のよう。岩山の上には彼らの「その後」も描かれています。ロトと娘たちは、町に住むのを恐れて山中で暮らしました。そんなある日、姉は妹にこう言いました。
「父も年老いてきました。この辺りには、世のしきたりに従って、わたしたちのところへ来てくれる男の人はいません。さあ、父にぶどう酒を飲ませ、床を共にし、父から子種を受けましょう」(「創世記」第19章31節~32節)
娘たちは、その晩、ロトを酔わせ、まず姉が父と契りました。次の晩には妹が父の寝床に入ります。酔ったロトは何も気づきませんでした。やがて姉妹は身ごもり、モアブ人とアンモン人の祖先となる子を産みました。
【図8】 ルーカス・ファン・レイデン 《ロトと娘たち》 1520年頃 ルーヴル美術館蔵
この物語は、16世紀から17世紀の北方の画家たちに、エロティックな画題を提供しました。ルーカス・ファン・レイデンの絵【図8】では、ソドムとゴモラの崩壊よりも、ロトと娘たちが中心主題です。それ以前の逃避行は、中景にロバを連れたシルエットで描かれています。ロトの妻は画面の隅に。ロバの白骨がちらばる山奥で娘と戯れあうロト。背徳の香りでむせかえるようです。