【図6】 「バベルの塔」 『黄金のハガダー』 バルセロナ 14世紀初め 大英図書館蔵
ユダヤ教でも旧約聖書場面は描かれました【図6】。バルセロナのユダヤ人によって描かれた典礼書挿絵では、なんと作業員たちがナイフで殺し合って血みどろ。それもひとえに、神が言葉を混乱させたためなのです。
【図7】 「バベルの塔の建設」 『ベッドフォード公の時祷書』 1414-23年 大英図書館蔵
それに比べると15世紀フランスの写本挿絵は穏やかな情景です【図7】。左隅に施主のニムロド。手前には、コンパスや定規を用いながら石を切り出す職人がいます。クレーンも手こぎ式に進歩しています。塔の建設が東方での出来事だと示すために、資材を運搬するのは駱駝です。でも、塔の飾りがゴシック風の三つ葉模様なのがキッチュ。塔の最上階では喧嘩が起こり、1人落下しつつあります。言語の違いというのは、それほど不和を引き起こすものなのでしょうか。
【図8】 ピーテル・ブリューゲル 《バベルの塔》 1563年 ウィーン美術史美術館蔵
「バベルの塔」といえば、ブリューゲルの作品を思い描く人も少なくないに違いありません。ブリューゲルはこの主題で少なくとも三枚描いています。【図8】はその一枚。《(小さな)バベルの塔》と呼ばれるロッテルダムの絵の方は、雲のかかり方などが禍々しくてかっこよいのですが、ウィーンにあるこちらの絵の方が、細部の描き込みが面白い。資材を運搬する船、スロープの上にいるたくさんの作業員、クレーンの描写など、当時の建築現場のようすが活写されています。塔のかたちがローマのコロッセオに似ているのは、イタリア旅行の成果だそうです。
わたしの粘土の塔も、こんなかたちでした。