「バベル」とは「神の門」の意で、バビロンのことです。紀元前6世紀のバビロンには90メートルにも達する高い塔があったことが、近年の発掘調査で明らかになりました。戦争に負けてバビロンへ奴隷として連行されたイスラエルの人々にとって、天高く聳える塔は、神をも恐れぬ傲慢の象徴と映ったに違いありません。
この物語のポイントは2つあります。人つめは、「全地に散らされることのないように」とあるとおり、人間たちは集結することで力を有し、神の意のままにならない存在になろうとしたこと。
ふたつめは、言語の混乱です。ひとつの言葉しかなかった彼らの傲慢を諫めるために、神は言葉を多言語化し、それによってバベルの塔の建設計画は瓦解しました。異人の集う大都市バビロンで、さまざまな言語が飛び交うさまに驚いたイスラエルの民は、それを「神の罰」と捉えたはずです。
美術では、塔の建設作業の描写に力が入ります。石を削ったり、セメントを捏ねたり、作業員が合図をしたりするようすが、生き生きと描き出されます。南イタリアで11世紀に作られた象牙彫りは、先すぼまりにならない塔のかたちがめずらしい【図2】。石斧で建材を切り出す人、それを籠に入れて手渡そうとする人、さまざまです。言語の混乱後だとすると、指で口をさすしぐさは、「言ってることわかんない」のポーズなのかしら。「で、この石、どうすんのさ」と大きな石を抱えた人もいます。
11世紀イングランドの写本に描かれた塔は、ずいぶん手が込んでいます。職人も瓦を葺いたり、扉を鉄細工で飾ったり。バケツリレーで資材を運ぶようすも、たのしそう。傲慢さなど感じられません。わたしが気になるのは神さま。なにも梯子に登らなくても……。
もっと傲慢さを感じさせないのが、南イタリア、オトラント大聖堂の床モザイクです【図4】。梯子に登って振り返る裸ん坊。入り口から屈んでなかに入り込んだり、かなり無理な体勢で石を積んだり、なにやら塔の中に潜り込んで、足しか見えない人もいます。
作業場で使われる道具の進歩は、十字軍以降(12世紀)のことと言われています。【図5】の写本は十字軍で獲得した領地アッカ(イスラエル)にヨーロッパ人が建てた修道院で制作されたもの。滑車のなかで必死に走っている工人たち! 滑車はクレーンに繋がっていて、石を高く吊り上げるのです。籠の中身は石でしょうか。てっぺんで赤い服を着ているのがニムロド。顎に手をあて思案中のようです。
この物語のポイントは2つあります。人つめは、「全地に散らされることのないように」とあるとおり、人間たちは集結することで力を有し、神の意のままにならない存在になろうとしたこと。
ふたつめは、言語の混乱です。ひとつの言葉しかなかった彼らの傲慢を諫めるために、神は言葉を多言語化し、それによってバベルの塔の建設計画は瓦解しました。異人の集う大都市バビロンで、さまざまな言語が飛び交うさまに驚いたイスラエルの民は、それを「神の罰」と捉えたはずです。
【図2】 「バベルの塔」 サレルノの象牙彫り 南イタリア 1050-80年頃 サレルノ大聖堂司教座博物館蔵
美術では、塔の建設作業の描写に力が入ります。石を削ったり、セメントを捏ねたり、作業員が合図をしたりするようすが、生き生きと描き出されます。南イタリアで11世紀に作られた象牙彫りは、先すぼまりにならない塔のかたちがめずらしい【図2】。石斧で建材を切り出す人、それを籠に入れて手渡そうとする人、さまざまです。言語の混乱後だとすると、指で口をさすしぐさは、「言ってることわかんない」のポーズなのかしら。「で、この石、どうすんのさ」と大きな石を抱えた人もいます。
【図3】 「バベルの塔の建設」 エルフリック 『モーセ六書注解』 イングランド 11世紀 大英図書館蔵
11世紀イングランドの写本に描かれた塔は、ずいぶん手が込んでいます。職人も瓦を葺いたり、扉を鉄細工で飾ったり。バケツリレーで資材を運ぶようすも、たのしそう。傲慢さなど感じられません。わたしが気になるのは神さま。なにも梯子に登らなくても……。
【図4】 「バベルの塔の建設」 オトラント大聖堂 床モザイク 1163-65年
もっと傲慢さを感じさせないのが、南イタリア、オトラント大聖堂の床モザイクです【図4】。梯子に登って振り返る裸ん坊。入り口から屈んでなかに入り込んだり、かなり無理な体勢で石を積んだり、なにやら塔の中に潜り込んで、足しか見えない人もいます。
【図5】 「バベルの塔の建設」 『カエサル以来の世界の歴史』 イスラエル、アッカ? 1260-79年 ディジョン市立図書館蔵
作業場で使われる道具の進歩は、十字軍以降(12世紀)のことと言われています。【図5】の写本は十字軍で獲得した領地アッカ(イスラエル)にヨーロッパ人が建てた修道院で制作されたもの。滑車のなかで必死に走っている工人たち! 滑車はクレーンに繋がっていて、石を高く吊り上げるのです。籠の中身は石でしょうか。てっぺんで赤い服を着ているのがニムロド。顎に手をあて思案中のようです。