「エバの創造」 ベルベッロ・ダ・パヴィア 『エステ家の聖書』 北イタリア 1423-34年頃 ヴァチカン教皇庁図書館蔵
いよいよ、エバの登場。
創造主は、動物たちの間に「片割れ」を見つけられなかったアダムのために、「助け手」を造ることにしました。創造主はアダムを深い眠りに落としたのち、以下の要領でエバを造りました。
「あばら骨の一部を抜き取り、その跡を肉でふさがれた。そして、人から抜き取ったあばら骨で女を造り上げられた」(創世記第2章21~22節)
この場面はとってもポピュラーで、写本挿絵ばかりでなく、聖堂正面の彫刻や壁画など、教会の目につく場所にも多く見られます。どれも、細部がちょっとずつ違うので見ていてたのしい。
図像には、大きく分けて2タイプあります。第一は、昏睡状態のアダムの場面の次に、完成体のエバがアダムのもとに連れてこられる場面が続く、2場面から成るタイプ。起源は古く、ビザンツ帝国ばかりでなく、フランス、ドイツ、イタリアなどにも伝播しました。連載第2回で見たヴェネツィアのサン・マルコ聖堂の天蓋モザイクもこのタイプに属します。このモザイクはヴェネツィアがビザンツ帝国から入手した5世紀頃のギリシア語写本『コットン創世記』を手本としているからです。同様の図像は、9世紀半ばにフランスで造られた写本『ムティエ=グランヴァルの聖書』にも見られます。
「アダムの創造から楽園追放」 『ムティエ=グランヴァルの聖書』 トゥール 9世紀半ば 大英図書館蔵
この写本では、アダムの創造から、楽園を離れ、労働せざるをえない境遇に陥った人間の運命が1ページ内に描かれています。「エバの創造」は、上から1段目右と2段目左。1段目右で横たわるアダムが右手を顔にあてているのは、「深い眠り」に落ちていることを示すポーズです。仰向けに寝ているのだから、なにも頬杖をつかなくてもと思いますが、これなしでは「深い眠り」の表現が成り立たない。創造主がひょいと屈んで摘んでいるのは、アダムの肋骨です。図を拡大して見てみると「骨」だけでなく、お肉もついていそうな「スペアリブ」なのがわかります。この肉片から、どうやってエバを造ったのか見当もつきませんが、あっという間に次の場面では、人間となったエバをアダムに紹介しています。肝心な部分が微妙な陰影でぼやけているので区別しづらいけれど、両手をおろして「起立」しているのがエバ、右手を挙げて指をさしているのがアダムでしょう。