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  • [著者]今井舞
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劇団のシニアコース|イマイマイズム見聞録[第9回] 今井舞「新潮45」12年11月号



 もうすぐ東京を台風が直撃という、最悪のタイミングで見学の予定を入れてしまった今回。行先は「劇団東俳」だ。東俳といえば、子役のイメージ。私もはじめ、子役レッスンの模様を見学しようと思っていたのだが、HPを調べるうち「50歳以上」向けの「専攻科」というクラスを発見。見るべきものはこれだという、物見遊山センサーに従い、急きょこちらにターゲットを変えた次第だ。
 当日、台風直撃でレッスンが休みになるんじゃないかと、朝と出かける直前の二度、事務局に電話したのだが。二度とも「やってま~す」「大丈夫で~す」との答えが。リスクマネジメントが過剰になり、何かっつーとすぐ「中止」になる昨今、この能天気さは希少である。締切直前に取材日を設定したせいもあり、こっちも今日休講になったら死ぬほど困る。リスクマネジメント皆無の東俳の経営方針に感謝しつつ、嵐直前の山手線に乗り込んだのであった。南無三!
 山手線・駒込駅から徒歩3分。小さなオフィスやマンションが立ち並ぶ周囲に溶け込むように建つ東俳のビル。佇まいから見るに、かなり築年数は古そうだ。暗くなる前に、外観を撮影。周囲はもちろん、ビルからも人っ子一人出入りはない。本当にレッスンはあるのか、不安になりつつ中へ。

夢いっぱい、ひと気はゼロの受付。


少しでも引っかかった生徒は全員張り出し。エキストラ度数高そう。
 節電中なのか、かなり薄暗い受付は、昔の映画館のチケット売り場のような、かがまないと相手の顔が見えない作り。周囲の壁にはビッシリと、出演が決まった劇団員の氏名と番組・CMスポンサー名が張り出されている。
 見学の予約を入れた旨を告げると、応対した若い女性職員に「失礼ですが、お歳は……?」と怪訝そうに尋ねられる。電話予約の際、「70代の母が入りたがってるので、どんなことをするのか娘の私が見ておきたい」という話をしておいたのだが。どうやら伝達ミスらしく、私自身が参加希望者だと思われたようだ。50代以上には見えなかったことにちょっと安堵しながら、改めて説明し直し、手続きを済ませ、いざクラスへ。
 築年数が古い上に、増改築を重ねたと見えるこの東俳のビル。狭くて急な階段、不規則にあちこちに伸びる細長い廊下、人ひとりがやっと通れるほどの狭い教室の入り口などなど、中は迷路のように複雑で、まるで塹壕。
 どこをどう行ったのかワケがわからなくなったところで、目的の教室に到着。先にノックして入った事務員が「見学の方です」と告げ、私が入ると、恰幅のいいガタイに大きな目のトトロみたいな先生と、パイプ椅子に並んで座っている生徒さんたちが、こっちを見て固まっている。
 受付で把握してないことが、当然教室に伝わっているはずもなく。たぶん皆さん私が何歳なのかで戸惑っていたのだと思うのだが。授業中断してまで説明するのもアレだし。軽く挨拶して、パイプ椅子を開き、コソッと後ろに着席した。
 ここで授業が再開したのだが、どうやら今までは「シェイクスピア劇に出てくる惚れ薬」について講釈していたらしい。んまあ高尚。続きの話に耳を傾けつつ、周囲を見回す。教室は20畳ほどもあり結構広い。リノリウムの壁に、小さな孔が均等に穿たれた防音の白い壁が、学校の音楽室を思い出す。
 生徒は全部で8人。内訳は、男4人、女4人。女性は皆60代手前くらいで、地味派手の差こそあれ、おしゃれ心を発揮している主婦、という感じだったが、男性の方は全くわからない。50代から、上は70過ぎてるであろうお爺さんもいたのだが、全員部屋着みたいな服をでろんと着てて、何つーか「金出してまで演技のクラスに通っている人」という感じが皆無。でも、凡庸でもなく、なんかひとクセ匂っている。一番近いのは、昔松本人志がやってた「働くおっさん人形」って番組に出てた人たちなのだが。余計にわかりませんね。

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