「でも、書店に並べます!」
「総合出版社の中で、我が社ほど無名の人の本を売ってる会社はありません」と胸を張る男性社員は、続けて出版業界のシステムも解説。
本とは、ただ書けば出版社が本屋で売ってくれるワケではなく、「取次店」を介さねばならない。この取次店というものの権限は非常にデカく、書店に本が並ぶかどうかは、ここの胸三寸なのが現状。売れそうな本や、著名人の書いた本などはたくさん流通させるが、そうでない場合は、「返本」といって、全く本屋に並ぶことなく返されてしまう。ま、さすがに私は末席ながら出版業界に携わっているから知っているが、後の人達は「初耳」って感じで聞き入っている。
いわゆる「自費出版」というもののからくりが、今一つべールに包まれ濁されているのは、この「返本」というシステムのせいだと言っても過言ではないだろう。高い金出して本を作っても、無名のアマチュアが書いた本は、一冊も書店で売られることなく終わってしまうのだ。
しかし文芸社は、独自のルートで大手書店と提携、一定以上のレベルに達した本は、必ずそこに並べて売るという。その「一定のレベル」ってのが引っかかるんだが。そんな顔をしてたら、「我が社オリジナルのノウハウを駆使して、ベテラン編集からプロの作家までが相談に乗り、添削し、アドバイスして、アマチュアの書き手が書いたものをそこへ持って行きます!」と目を見て熱弁される。ひえー。
本を出すのに金は取る。ウチは島倉千代子が本出した時も金取りました。でも、書店に並べます! 皆さんのも並べましょう! 私を除く会場の6人のボルテージはかなりヒートアップ。
その熱が冷めないうちに「では、実際に活躍されている作家さんから執筆のコツを聞いてみましょう、お願いします!」との声と共に作家が登場。女性っぽい名前だったので、華奢な女性が出てくるとばかり思っていたら、出て来たのは柄シャツに短パンのずんぐりむっくりした中年男性。にっこりと開口一番「小説のことなら何でも聞いて下さい」と言いつつ、始めたのはなぜか電車の話。「松屋の中を通って行く東武線浅草駅のカーブがたまらない」などなど、唐突な鉄オタ話が延々続き、一同ポカーン。
空気を察したのか、突然話をやめて「質問をどうぞ」と切り替える先生。すると皆、食いつく食いつく。「自分の悩みが快方に向かって行く様子を書きたい。でも書いたものを読むと、気分が悪くなってしまうんです」「子供を虐待してた話を本にしたいんですが、子供に反対されたらどうしましょう」。……むぅ。伊集院静先生なら「今すぐやめてパート行きなさい」とでもアドバイスするところだろうが、この先生は「自分の作品を客観視できるのはいいこと」「真実を書きながらプライバシーを保護することは可能。そういう意味でもちゃんとした出版社を通した方がいい」と、本質にうまく紗をかけ絶妙にアドバイス。聞けば、実際に出版希望者への助言なども行っているらしい。ある意味完全にスタッフって感じ。