往復書簡 いま、どこですか? 小澤征良、杏 |
征良 すごく愉しかった! ひと言で言えばもうこれに尽きます。
杏 本当に。こんなに誰かとずっと手紙のやり取りをすることなんてないし。こうやって振り返ると私たちすごく旅してるのね。
征良 自分の知らない場所から切手がはられてやって来る。自分のためにちょっと時間をかけて、ポストに投函してくれたっていうのが、それじたい素敵なギフトだと思うね。
編集部 確かに。ところで、この連載中に2人で一緒に行った旅についてそれぞれ書いていただいたことがありましたね。
征良 伊豆旅行のことね。
杏 2泊3日だったね。
征良 突然決めていったんだね。
杏 「行こうよ!」とか言ってね。
征良 そうそう、好転反応の旅だったのよね。
編集部 好転反応?
杏 キーワードは好転反応ってつけたの。
征良 ふふ。あのときはお互いいろいろあったのよね。
杏 だから好転するために出かけたの。そこは私が昔から知っている陶芸家の先生の家。昼は陶芸を教えていただいて、夜は居間で布団敷いて寝てくださいって。カエルの合唱がすごくて、ジブリの世界みたいな古民家だったね。
征良 で、寝る前に座敷童が出ると思うけど大丈夫だから、みたいなことを言われて。でも疲れていたのですぐ寝ちゃったんです。ところが夜中にいきなり「チリリ~ン」って風鈴の音がして目が覚めたの。そしたらまたチリリ~ンって。でも見回しても風鈴はないし、もしや座敷童!? と怖くなって杏ちゃんに言おうと思ったんだけど、年上のくせに「杏ちゃん怖い」と起こすのもなんかかっこ悪いぞ、と。
杏 しかも私、息してないみたいに眠るから。
征良 そうなの! 動かないの、杏ちゃん。私だけすごいトワイライトゾーンに入っちゃったんだ、って思ったんだけど、とにかく我慢してお布団をかぶってなんとか寝たんです。で、朝起きて杏ちゃんにその話をしたら、
杏 それ、私の携帯って(笑)。
編集部 杏ちゃんの携帯電話の着信音だったんですか?
杏 そう。そのときはリアルな風鈴の音にしていたの。
征良 本当にリアルだった!
杏 私、一度寝たら目覚まし時計の音以外では絶対に起きないんですよ。
征良 もうそのおかげで私は本当に怖かった。
フィレンツェはおいしかった
編集部 ところで、お2人にとって旅とは?
杏 旅とは……。そうですね。日常を見つめられる、非日常の空間かな。
征良 確かにそうだよね。
杏 その非日常の空間で手紙を書くとき、相手との関係が浮き彫りになって見えてきたり、あぁ私はいつもこういうところが恵まれていたんだな、ということに気がついたりする。