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  • [著者]今井舞
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免許停止処分者講習|イマイマイズム見聞録[第4回] 今井舞「新潮45」12年6月号
 さて講習初日。江東運転免許試験場内の指定の教室へ入ると、正面に「○月○日○曜日」と書かれた黒板が設えられ、イスと机が並べられている。懐かしい「学校」のつくり。9時半の集合時間前に全部で24名の生徒が揃う。皆等しく免停60日。うち女性は私だけだった。あらかじめ決められた一番隅の席に着く。恥。
 隅から見渡してみると、同罪の私が言うのもアレだが、メンツはおしなべてショボい。年齢層はバラバラだが、普段仕事何やってんのか、いや、そもそも仕事してるのか、という感じの人多し。一人だけ、サラリーマンとおぼしきスーツ姿の人がいたが、後は皆、毛玉だらけのフリースとか、もっさいジャンパーとか着てる。ツナギの作業着姿の人も2名ほど。苦役列車か。
 9時半丁度、50代とおぼしき教官が二人入って来る。二人とも恰幅のいい体躯に、警官みたいな制服がハマっている。一人は教壇、もう一人が教室の後ろにつくと、教壇に立ったほうが「ハイ、今日から二日、計10時間のカリキュラムご一緒させて頂きまーす」と、なめらかな口上で自己紹介。この人、顔も口調も、なんかアンタッチャブル山崎弘也にそっくり。居眠りするなど態度が悪かったり、テスト結果が悪いと、短縮日数が少なくなる等、受講にあたっての注意事項がザキヤマ口調で続けられる。「教室内は、飲食、携帯、ウォークマン、ダメねッ」と、早速机の上に携帯やペットボトルを置いている人が注意される。「あと、教室内脱帽ねッ」と指された、カンカン帽被った20歳そこそこの若い男が一人、「ダツボウ」の意味がわからないらしく、しばらく固まっている。「帽子がダメってこと、ねッ」と言われてやっとボーッと脱ぐ。むぅ、これが噂のゆとり教育か。
 膝を打ったところで、そのまま「運転適性検査」に入る。試験用紙のようなものが配られ、「○をとにかく早く書く」「△をとにかく早く書く」「仲間はずれの図形を探す」などなど、何だかバカにされているようなテストを、砂を噛むように次々とこなす。すごかったのは「性格診断」。「はい」か「いいえ」の二択で質問に答えていくのだが、「人に見えないものが時々見える」「世の中の人間は間違っていると思う」「カッとしやすいほうだ」等々のエキセントリックな質問が散見された。これ「はい」って答えたら、永久に免許戻って来ないんじゃないだろか。
 面白いから問題持って帰りたかったのだが、答案用紙だけでなく、問題用紙も全て集められてしまった。しかし、「右端の席から順に自分の用紙を上にして左に集める」なんて簡単なことをするのに、皆異様に時間がかかってる。「これでいいの?」てな具合でモジモジ不安そう。続く講義でも、「教本の43ページ開いて」と言われ、そこが見つけられない人がチラホラ。ウソだろ……。教室後ろに予備教官がいるのは、監視する為なのかと思いきや、こういう人の手助けの為でもあったのだ。夜間中学か。

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