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  • [著者]今井舞
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アムウェイ・プラザ東京|イマイマイズム見聞録[第1回] 今井舞「新潮45」12年3月号
 看破しに来たつもりが看破され、しょんぼり電話を切り、敗北感にさいなまれながら、帰りしな自由に見られると聞いた地下を見に行く。そしたらこっちはすごい面白いでやんの。アムウェイの創業者や社長(アメリカ人)の演説ビデオ、日本の「成功者」たちの喜びの声、海外で行われたド派手パーティの模様等々、数多のうさん臭映像が、複数のパノラマ大画面から同時に流れ、それぞれがてんでバラバラに大音響を発している。そのカオスっぷりもさることながら、アムウェイビジネスがもたらすボーナスにより得られる階級「ピン・レベル」の各バッジが、位順に恭しくガラスケースに納められていたり、「名前」「ピン・レベル」「都道府県」から、個人名を探せるタッチパネルがあったりという「あからさま」たるや。ひと気もなく、写真撮り放題の中「私がなぜ洗剤を売っているのか? 答えは簡単。洗剤は、……売れるからですッ!!(演説会場スタンディングオベーション)」などの、部外者には揚げ足取り放題の無防備ぶりに、心躍った。
 しかし、冷静に考えれば、これを憧れの眼差しで見る人だけでなく、呵々大笑する人間にも等しく開放しているというのはすごいことだ。「○○○講」と囁かれながらも、シッポは絶対に掴ませない自信の表れ。やはり老舗の貫録。懐に飛び込む気はないが、その広さは認め、塩を送りたい。受け取ってくれないだろうが。
 出口へ向かうと、もうすっかり日も落ちていた。ラウンジを通ると、昼に携帯でずっと話していた大学生位の男の一人客が、まだ電話をかけ続けている。手元のメモには、ビッシリ書かれた人名が上から順に棒線で消されていた。ああ、アムウェイに負けているのは私だけではないのだ。急に胸のつかえが取れ、足取りも軽く、この伏魔殿を後にした。


地下へ続く吹き抜けの広間。贅沢な空間にポツンとカップルが一組。1時間後通りかかったらまだいた。二人ともまったく言葉を発さず、前を凝視していた。どういう経緯であの二人はあの広間のソファに座っていたんだろう。いろんなドラマが生まれる場所、アムウェイ。

地図を押すとその地域のトップの皆さんの名前が恭しく表示されるという、無駄にハイテクな設備。嗚呼個人情報。

無人の空間に流れ続けるトップたちの栄光の映像と音声。まるでSF映画のような、現実離れしたシュールな画ヅラ。
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