「命の電話」
「なるほど、ここでじっくりか」と、意を決してそこに入る。だがここでも開口一番「どなたかの紹介ですか?」と尋ねられ、違うと知ると窓口のお嬢さんは若干迷惑顔。そこで私は、今回アムウェイを訪れるにあたって考えておいた「放映中のサプリのCMを見て、試してみたいと思ったが、アムウェイはちょっと、と家族に言われ、納得できる商品及びシステムなのか、確かめに直接来てみた主婦」という役柄設定そのままのセリフを口にした。あまり饒舌にせず、躊躇の中に購買欲をチラつかせながら。服装も全身ユニクロでバッチリだ。これに喰いつかず誰に喰いつく、という○○○講好みの人物を演出したつもりであった。
だが、カウンターからは、予想に反する反応が返って来た。名刺大の粗末な紙に「相談ダイヤル」と記された電話番号が書かれたものを渡され「ここに電話して、どなたかの紹介を受けて下さい」。えッ、本社にわざわざ来たのに電話!? ここで説明受けて会員になれないの? なろうと思って来たのに、とぶらり手を下げノーガード状態にしても対応は変わらず。まずはお電話をの一点張り。「この裏に直通の電話がありますので」と言われ、渋々そこに向かうと、通路に「命の電話」のようにポツンと置かれた電話器が。ダイヤルを押し、またイチから同じ説明をする。電話口に出た女性は非常に丁寧に、わざわざ出向いた私に謝りながらも、「まずは紹介が前提。誰も知らないならお近くの説明できる人間を紹介します」と、鉄の掟を繰り返す。だが決して向こうからは私の連絡先を尋ねない。
ようやく私は、自分の思惑が完全に外れたことを理解した。私の想い描いていたアムウェイ像、それは「舌なめずりしながら常にカモを探す○○○講」だった。だが違う。確かにカモは探している。しかしそのカモは、あくまでも自分で選び出す。それがアムウェイ。審美眼には自信あり、の創業五十余年の老舗の貫録。異分子を感知し排除する、本能にも似た防御システムが、所属する全ての人間に等しく備わり機動している。まるで大きな生命体のよう。恐るべし、アムウェイ。