「紅海渡渉」 『サラエボ・ハガダー』 バルセロナ 1350年頃 ボスニア・ヘルツェゴビナ国立図書館蔵
神はエジプトで奴隷となっていたイスラエルの民を解放するため、いくつもの災厄をその地にもたらすのですが、その最後が「初子の災禍」でした。神はモーセに告げます。
「その夜、わたしはエジプトの国を巡り、人であれ、家畜であれ、エジプトの国のすべての初子を撃つ。また、エジプトのすべての神々に裁きを行う。わたしは主である。あなたたちのいる家に塗った血は、あなたたちのしるしとなる。血を見たならば、わたしはあなたたちを過ぎ越す。」(「出エジプト記」第12章12-13節)
イスラエルの人々は災いを逃れるため、子羊もしくは山羊を屠り、家の入口の二本の柱と鴨居にその血を塗ります。「死の天使」は血のしるしがある家は「過ぎ越し」ました。
【図1】 「過越し」 『アッシュバーナムのモーセ五書』 制作地不明 6世紀末から7世紀初め パリ国立図書館蔵
エジプト人の家々では悲鳴があがります。【図1】の上部、背景が青黒い部分がその夜の場面です。中段左に、剣を手にした「死の天使」がいます。左上にはマントをまとったファラオの姿も。王家から貧家まで、みなが大事な子どもの死を嘆いています。駱駝、馬、牛などの家畜の仔も、死の天使から逃れられませんでした。
ファラオはその夜のうちにモーセを呼び出し、イスラエルの人々とともにすぐさま町を出るよう命じました。イスラエルの民は「まだ酵母の入っていないパンの練り粉をこね鉢ごと外套に包み、肩に担いだ」と記されています。彼らはその際、エジプト人から宝飾品や豪華な衣類を取りあげています。人数は壮年男子だけで60万人、女性や子ども、羊や牛もふくめるとたいへんな大所帯でした。
【図1】下段の背景は朝焼の色。モーセ一行がファラオに見送られて町を出てゆく場面です。彼らが目指すのは約束の地カナン。アブラハムが暮らした、乳と蜜の流れる土地。しかし、つらい旅でした。40年間も荒野をさまよわなくてはなりませんでした。