モーリス・ドニ 《天使と格闘するヤコブ》 1893年 キャンバス 油彩 個人蔵
旧約聖書の登場人物のなかでヤコブが特別おもしろいのは、必ずしも「品行方正」でないからです。兄のエサウから「祝福」を横取りしたばかりでなく、天使とつかみ合って格闘したり。それは、妻子とともに故郷に戻る途中の出来事でした。
渡しを渡った。ヤコブは独り後に残った。そのとき、何者かが夜明けまでヤコブと格闘した。ところが、その人はヤコブに勝てないとみて、ヤコブの腿の関節を打ったので、格闘をしているうちに腿の関節がはずれた。「もう去らせてくれ。夜が明けてしまうから」とその人は言ったが、ヤコブは答えた。「いいえ、祝福してくださるまでは離しません。」「お前の名は何というのか」とその人が尋ね、「ヤコブです」と答えると、その人は言った。「お前の名はもうヤコブではなく、これからはイスラエルと呼ばれる。お前は神と人と闘って勝ったからだ。」(「創世記」第32章23節~29節)