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天への梯子 「ヤコブの夢」|キリスト教美術をたのしむ 金沢百枝


「ヤコブの梯子」 『ツヴィーファルテンの祈祷書』 1138-1147年 シュトゥットガルト ヴュルテンベルク国立図書館蔵
「ヤコブの梯子」 『ツヴィーファルテンの祈祷書』 1138-1147年 シュトゥットガルト ヴュルテンベルク国立図書館蔵

 高熱を出して寝こむと、繰り返し見る夢があります。お相撲さんが部屋いっぱいに膨れたかと思うと豆粒のように小さくなり、また膨れあがる夢。膨張と収縮を際限なく繰り返すので、気が違いそうになります。小さい頃、その夢のことを母に話したら、母の夢を話してくれました。それは、天井から綱がするするっと下がってきて、その綱をつたって小さな鬼が上がったり下りたりするのだそう。ちょこっとだけ、ヤコブの夢と似ています。

 兄エサウから「祝福」を横取りしたヤコブ。兄の報復を恐れて伯父の住むハランへ旅立ちました。その途上、こんな夢を見たそうです。

 とある場所に来たとき、日が沈んだので、そこで一夜を過ごすことにした。ヤコブはその場所にあった石を一つ取って枕にして、その場所に横たわった。すると、彼は夢を見た。先端が天まで達する階段が地に向かって伸びており、しかも、神の御使いたちがそれを上ったり下ったりしていた。(「創世記」第28章11節から12節)

 枕元に神さまが現れ、ヤコブの子孫が砂粒のように増えると約束します。「どこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れ帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない」と、心強い言葉もいただくのです。朝、目覚めたヤコブは、枕にした石を立て、油を注いで祀りました。その場所には、後にエルサレムの神殿が建てられたとも言われています。

 ヤコブは伯父の娘姉妹を娶り、12人の息子に恵まれました。その12人は「イスラエル12支族」、つまりユダヤの民の祖となったので、ユダヤ教徒にとって重要です。ヤコブが梯子を夢見る場面は、現存最古のシナゴーグ壁画であるドゥラ・エウロポス遺跡でも描かれていますし、ユダヤ人だったシャガールも、何枚か描いています【図1】

【図1】 マルク・シャガール 《ヤコブの梯子》 1957年 エッチング 手彩色 ハガティ美術館蔵
【図1】 マルク・シャガール 《ヤコブの梯子》 1957年 エッチング 手彩色 ハガティ美術館蔵

 眠るヤコブ、梯子、天使は、この場面に必須な要素です。シャガールは、梯子のてっぺんに神を描かず、バッサリ画面を切っていますが、代わりにヘブライ語で「アドナイ(主)」と小さく記して、梯子がみもとへと繋がっていることを暗示しています。背景には、神の光を表すかのように白い三角形が控えめに浮かび上がります。雲間から幾条かの光が地上に差し、天使が下りてきそうにみえる気象現象(薄明光線)を、英語では「ヤコブの梯子(Jacob’s ladder)」と呼びます。

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