ヨアヒム・パティニール 《ソドムとゴモラの崩壊のある風景》 1520年頃 ロッテルダム ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館蔵
ロトは、アブラハムの甥です。アブラハムとともに故郷を離れてカナンへ赴き、飢饉のときにはやはりともにエジプトへ逃れました。そのふたりが財を蓄え、羊飼いなど使用人が増えると、衝突するようになります。そこで、別の場所に住むことにしました。ある日、見晴らしのよい丘へのぼり、それぞれの土地を選びました。アブラハムは甥のロトに先に選ばせます。ロトは、ヨルダン川の低地がエデンの園のように潤い豊かなのを見て、そこに決めました。しかし、そこは、悪徳で名高いソドムとゴモラの町でした。
【図1】 ギュスターヴ・モロー 《ソドムの天使たち》 1890年頃 パリ ギュスターヴ・モロー美術館蔵
天使たちがアブラハムを訪れ、年老いた妻サラの懐妊を告げたことは第19回でお話ししましたが、じつは、天使たちの真の使命は、ソドムとゴモラを滅ぼすことでした。天使を送ってきたアブラハムは、ソドムとゴモラを見下ろす場所に来たとき、町に天罰が下ると知らされます。そこにはロトの家族が住んでいます。驚いたアブラハムは、神にたずねます。
「まことにあなたは、正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされるのですか。あの町に正しい者が50人いるとしても、それでも滅ぼし、その50人の正しい者のために、町をお赦しにはならないのですか」(「創世記」第18章23節~24節)
神は50人いたら赦すと約束するのですが、アブラハムはさらに食い下がります。もし、正しい者が50人いなかったら、45人なら、40人なら、30人なら、20人なら、10人なら……。ついには10人いれば赦すということになりました。