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イサクの犠牲 「アブラハム(後編)」|キリスト教美術をたのしむ 金沢百枝


「イサクの犠牲」 ベト・アルファのシナゴーグ 床モザイク 518-527年 イスラエル
「イサクの犠牲」 ベト・アルファのシナゴーグ 床モザイク 518-527年 イスラエル

 たった19節の短い文章ですが、「イサクの犠牲」と呼ばれる物語は人々に衝撃を与えてきました。聖アウグスティヌス、ルター、カント、キルケゴール、レヴィナスやデリダなど、古代から現代にまでいたる多くの思想家が、この物語の解釈を試みています。

 息子も成長し、しあわせな老後を送っていたアブラハムに、ある日、神はこう命じました。

「あなたの息子、あなたの愛する独り子イサクを連れて、モリヤの地に行きなさい。わたしが命じる山の一つに登り、彼を焼き尽くす献げ物としてささげなさい。」(「創世記」第22章2節)

 「焼き尽くす献げ物」とは、肉は食べずに焼き尽くすという意味で、「燔祭」とも呼ばれます。洪水後、箱舟から降りたノアがアララト山の山頂で執り行った、あの儀式です(第16回)。焼く前に動物の血を抜き、祭壇の台座に注ぎます。脂も焼き、煙りを立てるのがしきたり。「レビ記」によると、平日であれば朝夕、羊か山羊を1頭ずつ、祝日には数頭の羊か山羊、あるいは牛を捧げるのだそう。しかしなぜか、アブラハムが屠るよう命じられたのは、100歳近くにもなってようやく生まれた後継ぎ息子でした。
 それでも、信仰篤いアブラハムは、次の朝早く、献げ物に用いる薪を割り、ろばに鞍を置き、ふたりの従僕とイサクを連れてモリヤ山へ向かいました。出発から3日目、約束の場所が見えてくると、ろばと従僕をその場に残し、息子とふたりで向かいました。イサクに薪を背負わせ、自分は火と刃物を手にしています。イサクは途中、「火と薪はあるけれど、燔祭のための子羊はどこ?」と父に尋ねています。アブラハムは「子羊はきっと神が備えてくださる」としか答えませんでした。聖書には「二人は一緒に歩いて行った」としか書いてありませんが、重苦しい旅だったに違いありません。

 神が命じられた場所に着くと、アブラハムはそこに祭壇を築き、薪を並べ、息子イサクを縛って祭壇の薪の上に載せた。そしてアブラハムは、手を伸ばして刃物を取り、息子を屠ろうとした。そのとき、天から主の御使いが、「アブラハム、アブラハム」と呼びかけた。彼が、「はい」と答えると、御使いが言った。「その子に手を下すな。何もしてはならない。あなたが神を畏れる者であることが、今、分かったからだ。あなたは、自分の独り子である息子すら、わたしにささげることを惜しまなかった。」アブラハムは目を凝らして見回した。すると後ろの木の茂みに一匹の雄羊が角をとられていた。アブラハムは行ってその雄羊を捕まえ、息子の代わりに焼き尽くす献げ物としてささげた。(「創世記」第22章9節~13節)

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