「聖母子図」 旧サン・ペドロ・ダ・ソルペ聖堂壁画 カタルーニャ 1120年代 カタルーニャ美術館蔵
なぜ、アダムとエバは楽園(エデンの園)から追放されたのか。わたしは、ずっと、神の言いつけに背いて「善悪を知る木」の実を食べたからだと思い込んでいました。中世のキリスト教美術では、ふたりが「善悪を知る木」の実を食べたことを、神に近づこうとした傲慢さと見なすため、「楽園追放」は「堕罪」とともに描かれます。しかし、じつはそう簡単な話ではなさそうです。
楽園の2本の木(善悪を知る木と生命の木)については、以下が初出です。アダムの創造直後の記述。
「主なる神は、見るからに好ましく、食べるに良いものをもたらすあらゆる木を地に生えいでさせ、また園の中央には、命の木と善悪の知識の木を生えいでさせられた」(「創世記」第2章第9節)
次に、楽園の護り人を任じられたアダムは、神にこう告げられます。
「園のすべての木から取って食べなさい。ただし、善悪の知識の木からは、決して食べてはならない。食べると必ず死んでしまう。」(「創世記」第2章第16~17節)
ここで神が食べることを禁じているのは、「善悪を知る木」の果実で、「生命の木」についてはふれていません。「生命の木」の実は、以下のくだりを読むと、いつでも簡単に手に入ったようです。
「人は我々の一人のように、善悪を知る者となった。今は、手を伸ばして命の木からも取って食べ、永遠に生きる者となるおそれがある。」(「創世記」第3章22節)
なぜアダムとエバは禁止されていない「生命の木」の実を食べなかったのでしょうか。いっぽう神はなぜ、アダムとエバが永遠の生命を得ることをおそれたのでしょうか。