リリス(?) シュメール粘土板 紀元前2000年頃 大英博物館蔵
アダムに、もうひとり妻がいたというユダヤの民間伝承があります。その名はリリス。10世紀頃に書かれたユダヤの民間伝承『ベン・シラのアルファベット』には、おおよそ以下のような物語が記されています。
アダムの創造後、アダムがひとりでいるのをご覧になって、神はアダムのために女を造りました。アダムと同じく、土から造り、それをリリスと名づけました。しかし、アダムとリリスはすぐに喧嘩を始めました。性行為のときの体位でお互い譲らなかったのです。「僕は絶対、上じゃなきゃダメ。だって僕のほうがエラいんだから」とアダムが言えば、「同じ土から生まれたんだから、私たちは平等よ」とリリス。アダムと等しい権利を主張するリリスは、口に出してはならない神の言葉を口にすると、ぷいっと飛び去ってしまいました。アダムは神に訴えました。「あなたがわたしのために造ってくれた女が逃げました。どうしてくれるんですか」
神はすぐに3人の天使を派遣しました。紅海で悪魔たちと交わっているリリスをみつけた天使たちは、楽園に戻るよう命じましたが、リリスは応じません。「戻らなければ、お前の子どもを毎日100人殺すぞ」と脅しても、「だったら私は人間の赤ちゃんを掠うから」と強気です。「あんたたちが護る人間の子どもは許してやってもいい」というリリスの約束を聞き、天使たちは帰ってゆきました。