矢来町ぐるりとは？

　若く美しいジュヌヴィエーブ（カトリーヌ・ドヌーブ）が、頬杖をついて店番をしているような、そんなお店だった。
　老舗の傘専門店というと、ステッキタイプのいかつい紳士傘が並んでいるイメージがあるが、ここはそういう品揃えではない。華奢で装飾的でエレガント。まさに映画「シェルブールの雨傘」で観たような印象で、これが本来の「フランス的」な女性の傘なのだな、と思う。
　店の創業は19世紀に遡るが、いまのオーナー、アレクサンドラさんが引き継いだのは10年前。祖父母が傘職人をしていて、彼女も16歳から傘作りをはじめた。精力的にデザインを手掛け、次々と新作を出している。そのすべてが手作りの1点もので、シリアルナンバーつきだ。驚くのは、表面にミンクや刺繍や麻を使っているものがあり、雨に濡れても問題ないのだそうだ。さしてみると生地は二重に張られ、細かい部分まで丁寧な仕事が施されているのがわかる。この存在感は、まるで1着のドレスだ。