ホームレスギャルが営む移動キャバクラ、援助交際専門のデリヘル、脱法ハーブという名の危険なドラッグ、闇バカラ……。本書で取り上げられるこれらの「裏の世界」は、現実には「ある」のに、多くの人々からは「ないもの」として扱われてきた。「清く正しい」人々からは、「あってはならぬもの」として意識の外に追いやられてきたのだ。このように「裏の世界」が生活圏の外、つまり「周縁」に追いやられてしまった現代の日本を、著者は「漂白された社会」と呼ぶ。
若き社会学者である著者がこれら「ありえないはず」の世界を取材し、社会学的アプローチで迫っていく。論文として読むにはやや物足りないし、ときに社会学的な装いがうるさく感じられるところもあるが、それを補って余りあるのがルポルタージュの部分。おそらくかなりの時間をかけて行われたであろう丹念な取材をもとに、登場する人物たちの日常が実に生き生きと描かれているのである。
例えばシェアハウスの実態に迫った第三章は印象的だ。夜逃げの後処理業者や遺品整理業者、ネズミ講などの「ビジネス」の裏側を巧みに交えつつ、マスコミが作り上げたシェアハウスのどこかクリエイティブで洒落たイメージを根本から覆していく。かといって、ことさらに何かを暴露したり、正義を振りかざすわけではない。お約束のウェットな物語に回収するわけでもない。抑制のきいた観察者としてのバランス感覚は、新しいルポのスタイルを予感させる。
それにしても、今の日本には「見て見ぬふりをされ」て周縁に追いやられ、放置されたままのものが多すぎる。いじめや虐待、貧困問題、性や差別の問題。それらが「問題」として眼前に現れるのは、事件化した後でしかない。原発の危険性しかり、竹島・尖閣問題しかり。人口予測から確実に訪れることがわかっていたはずの超高齢化や少子化の対策も、先送りと棚上げにされ続けてきたのだ。それが今の日本なのだと痛感させられる。