食・暮らし

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44 朝ごはん|能登 ごはん便り 赤木明登+赤木智子



 親切な友達が、いろいろなことを教えてくれる。
「あのさあ。玄米食べるのはいいけど、お肉とかと一緒に食べたら、歯に良くないんだってさ。」
「ええ、本当? やっぱり菜食にしないといけないのかあ。」
「うん。胡麻をかけて、よく噛んで食べれば、おかずもいらないって。」さらに。
「酵素玄米の方がいいんだってさ。」
「その『酵素』って何よ。」
「さあ。なんだろね?」

 うーむ。食いしん坊な私たちには、玄米だけの朝ごはんなんて、我慢できない。特にダンナは、ご飯・魚の干物・漬け物・みそ汁・納豆の「定番の日本の朝ごはん」が一番だ。というポリシーである。しかも、朝ごはんを一番しっかり食べたいと思っている。だから焼き魚が無かったら、卵を焼くか、朝からお肉を焼いて欲しいなどと言われる。「白いご飯じゃなくって、玄米しか食べないぞ」と、頑固おやじになっている時もあるけれど、ピカピカの白いご飯も大好きである。

 別の友達が、またまた教えてくれる。
「ねえ、とこちゃん。朝ごはんは食べない方がいいらしいよ。」
「えー。あんなに学校のプリントにも、『朝ご飯をしっかり食べましょう』ってしつこく書いてあるのに? そうなの?」
「朝、おなかが空いてないのに食べたら、胃腸が休む暇がないんだってさ。」
「おなかが空いていたらいいのかなあ。」
「そうかもね。」
 はっきりしたことは、みんなわからないのである。

「おなかの調子を整えるために、ヨーグルトをしっかり毎日食べたらいいでしょう。」
 これは、昔から世間で言われていること。ずっと、ウチでもヨーグルトを増やしていたので、それこそ玄米の朝ごはんをしっかり食べた後にヨーグルトもたっぷりいただいていたのである。ところが数年前、お医者さんの書いた本の中で「ヨーグルトを常食している人の腸相がよくない。」と言うのを読んでしまい、へなへなと力が抜けてしまった。その日から、赤木家ではヨーグルトを食べることも、増やすこともやめてしまったのだ。単純なのである。

 とにかくこんな具合で、健康法やら食事法やら、情報が交錯している。好き勝手で、お気楽な田舎暮らしをしているこんな私たちのところにまで、情報はやってくるのだ。

 去年の年末に。あるギャラリーから、お歳暮をいただいた。オーナーの方は、雑穀屋さんである。包みを開けると、雑穀のミックスしたもの、ぶどう酢に漬けた黒大豆、乾麺など、定番のおいしそうなものがいろいろ入っていた。中に「玄米シリアル」と「雑穀フレーク」の袋もあった。見るからにヘルシーでからだに良さそうである。ダンナに見せると、「ふーん」という、想像通りのさっぱりとした反応。元来、シリアルにヨーグルトをかけただけの朝ごはんなんて、チャンチャラ可笑しいぜ。と思っている男なのである。かといって、私がひとりで食べる気にもなれなかった。何しろ、うちの冷蔵庫にはヨーグルトが無いんだし。仕方ないので賞味期限が切れる前に、東京に居る息子にでも送ってやろうかと考えていたその矢先。なんと。ダンナが「あのシリアルとフレークを食べてみようか。」と言い出した。どういう風の吹き回しか、ちょっと耳を疑ったけれども、どうやら本気である。

 いそいそと二人で、ヨーグルトとドライフルーツとナッツなどを買って来て、早速朝ごはんに挑戦してみた。どーれ。
「わあ。おいしい。」
 ほんとに。
 ダンナもすっかり気に入って、山盛り食べている。何しろずっと、しっかりと玄米な朝ごはんを食べていたのだから。この朝ごはんは新鮮で、しかもなんだか楽しい。その日から、とりあえず一袋無くなるまで食べてみようじゃないか。ということになった。単純なのである。

 ついでに。この話を東京の友達に話していたら、「それなら、ヨーグルトの種をとこちゃんに返すよ。」と言う。
「え。返すって?」
「ウチで今食べているヨーグルトは、とこちゃんからもらったんだよ。」
「へー。ずっと、育てててくれたんだあ。うれしい!」
 というわけで、数年前にウチからお嫁に行ったヨーグルトが、また奥能登に戻って来て、今では毎日のようにウチで増殖して、シリアルとフレークの上に載せられている。

 さてさて。いつまで、この朝ごはんが続くことやら。油断をしていると、また酵素玄米などに戻るかもしれません。もっと油断をしていると、朝ごはんは食べないことになるかもしれません。(でもそれはないでしょう。何しろ、朝から二人ともおなかが空いているのですから。)

赤木明登 赤木智子『能登ごはん便り うちの食器棚』

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