食・暮らし

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42 竜宮城|能登 ごはん便り 赤木明登+赤木智子



 つめたい冬の海の中。ゆらりゆらゆら。ふわりふわふわ。くねりくねくね。

 能登の海は海藻の海。海に潜るおじさんに聞いてみると、海の中には、ずーっとずーっと海藻の森が続いているそうな。私も夏にちょっと岩場に入って、顔を突っ込んでみる。南の島の海のように、珊瑚や色とりどりの魚は泳いでいないけれど、様々な海藻が、ゆらゆらと、もさもさと、誰が考えたのか、美しい構成で、まるで竜宮城のようだなあとすこし思うのである。そこに透明のイカなんかがすいーっと、通り過ぎて行くと、「参りました」と降参したくなる程の美しい光景。水着などを着て顔を突っ込んでばたばたしている私は、一体何者なのかと、不自然な自分がイヤになってしまうのである。

「海藻と言えば、ワカメか昆布かひじきでしょう。そうそう、もずくもありました。」

 以前の私はそんなものでした。ところが、奥能登の海の中を覗けば、そんなものではないのです。もちろん名前など存じ上げない、色も形も成り立ちもさまざまな、海藻ワールドが繰り広げられている。ホンダワラ・カジメ・ツルモ・モズク・アオサ・ワカメ・クロモ・ウミゾウメン……。そして、驚いたことには、そのいろいろな海藻達が、食べることができて、おいしいということ。「そんなあ、当たり前のことでしょう」とまたまた笑われてしまいそうだけれど、カリカリに乾燥した昆布やワカメやひじきをお店で買っていた私には、驚くべきことなのでした。

 まだまだ寒い日には雪が舞い降りる、冬の終わりの能登の砂浜。そこに打ち上げられた「カジメ」はしっかりとした茎の先に、縁がギザギザの昆布のような、厚みのある大きな葉がついています。朝市のおばちゃん達がそれを早朝、浜で拾って来ては、トントントントンとまな板の上で細く切っている。細く切られた「カジメ」は、板の上に一握りずつの山になって、並べられる。大体ひと山、二百円也。この「生カジメ」が朝市に出てくると、私はどうしても買わずにはいられない。

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