食・暮らし

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ごはんいろいろ(ピース御飯)/高橋みどり――『沢村貞子の献立日記』より
沢村貞子の献立日記
高橋みどり、黒柳徹子、山田太一、笹本恒子、ほか
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沢村貞子の献立

沢村さんが57歳から84歳までの27年間、一日も欠かさずに記した「献立日記」。それは料理の記録でありながら、名女優にして名文家でもあった沢村貞子という人の、暮しかた、愛しかた、生きかたの記録でもありました。かねてより沢村さんを敬愛するフードスタイリストの高橋みどりさんが、その全36冊を読み、料理を作り、思いを語ります。

〈1冊目〉

丁度よくむらした炊きたてのご飯を、しゃもじで
ホンのすこしずつ、フンワリ盛るのが何より

『わたしの献立日記』より(以下同)


昭和41年(1966) 5月8日(日)
ピース御飯
かつを土佐作り
ふき厚揚煮付
清汁


ごはんいろいろ

 何度も繰り返し出てくる定番の献立の中には、実にさまざまなごはんが登場します。ご主人の好物だった「ピース御飯」は、時に「豆ごはん」として、出盛りの4月ころから、多いときは週2回も。グリーンピースはやはりさや付きのもののほうが豆の水分が保たれていて、しっとりとしておいしいものです。沢村さんはだいたい春先にグリーンピースをさやごと10キロも買いこんで、茹でたものを小分けにして冷凍しておき、ごはんやおかずの材料として、1年を通して使っていらしたようですね。
 ほかにも、筍ごはんや松茸ごはん、栗ごはんなど、季節感を味わえるさまざまなバリエーションのごはんが出てきます。お赤飯がたびたび登場するのも面白い。これだけ頻繁にお赤飯を食べる家庭はめずらしいかも知れませんが、実は私もお赤飯が大好きで、時々作って食べるので、とても親しみが湧きます。果たして蒸籠(せいろ)でじっくりと蒸すのか、それとも手軽に電気釜で作る「炊きおこわ」なのかしら……などと想像がふくらみます。
 沢村さんに時間に余裕のある休日など、料理本をめくっていて突然思い立ち、気分転換にもなるからと2時間もかけて「うにご飯」を作ることも。この仕上がりは絶品で、ご主人も大喜びだったとありますが、その後やはり献立の定番となりました。
「仕事がたてこんで─今夜はおそくなる、とわかっている朝、私は、よくまぜずしをこしらえる」(「梅酢」『わたしの献立日記』)。えっ、と驚いてしまうけれど、これにはちゃんと簡単に作れる「すしのもと」がある。「暇な日に、ごぼう、筍、干椎茸をこまかく刻んで少量のゴマ油で丁寧にいため、お酒と味醂、醬油でゆっくり煮こんでおいたものである」(同)。そして、まぜずしの酢めしの決め手となる「わが家得意の梅酢」なるものについて書かれた箇所[77頁]を読んでいると、今すぐにも青梅を求めに走り出したくなってしまいます。
 いくら炊きたてのおいしいごはんといっても、毎日同じではやっぱり飽きる。だからこそ、目先口先の変化のために、さまざまなごはんを作られたのでしょう。炊きこみごはん、おにぎり、にぎりずし、ちらしずし、丼、お粥、茶めし……日記に登場するバリエーション豊かなごはんの数々は、作り手の思いやりと愛情以外の何ものでもないのです。

ピース御飯

材料(3~4人分)
グリーンピース……1と1⁄3カップ
米……2合
昆布だし……2カップ
酒……大さじ2
塩……小さじ2⁄3


作りかた
1
米は炊く30分~1時間ぐらい前にとぎ、ザルにあげて水気をきる。
2
グリーンピースはさやから取りだし、水でさっと洗い、水気をきる。
3
炊飯器に米をいれ昆布だしをいれて酒、塩をくわえて混ぜ、調味して(2)のグリーンピースをのせてふたをして普通に炊く。
4
炊きあがったら、水で濡らした木しゃもじで全体を混ぜる。

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