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陽気な“トリックスター”「山口昌男氏」の独創|「週刊新潮」3月21日号
 “知の巨人”文化人類学者の山口昌男氏が10日、亡くなった。享年81。

「“知らない”ということを怖れてなかった。知らなければ、“これから知っていこう”という方でした」

 雑誌「東京人」の編集者時代から、マン・トゥー・マンで教えを受けた評論家の坪内祐三氏は語る。

「勘と集中力さえあれば、一つのことに3年費やせば、それなりのものが出来上がる、と言っておられました」

 北海道・美幌町生まれ。東大へ進み国史を専攻。麻布中学の日本史の教諭となるが、東京都立大大学院で文化人類学を学びなおす。

 アジア、アフリカなどでフィールドワークを重ね、「中心と周縁」理論や、道化の役割に着目した「トリックスター」論で、70年代から80年代にかけての知の世界をリードした。

 当時、種子島での調査に同行した砂田光紀氏(ミュージアムプロデューサー)は、

「島には独特の鍬(くわ)があって、それをスケッチすることになった。初めてでまごついていたら、山口先生が私のフィールドノートに、斜めから俯瞰した角度で鍬をスケッチされた。ものすごく上手で、“これに寸法を書き入れなさい”と。毎晩、学生と楽しく酒を飲み、翌朝は早起きして、テニスの壁打ちをされていました」

 漫画、映画、演劇、文学、美術――自らが論じた、一つの組織におさまらず複数の世界で生きるトリックスターを、体現したかのような人だった。先の坪内氏は、

「ちょうど30年前の3月に、小林秀雄が80歳で亡くなっていますが、60を過ぎて成熟していき、じっとものを見て『本居宣長』などを残した。ところが山口さんは老人なのに少年性を持っていた。じっとしてないで動く人でしたね」

 こんな先見もあった。

「20年以上前に会津と京都に通い、会津藩士の山本覚馬と京都の近代化とのかかわりを『「敗者」の精神史』に書いています。そこには妹の八重子も登場する。当時、大河ドラマになりそうだ、と話したものです」

 08年に脳梗塞で倒れ、都内の病院で療養中だった。

「2月下旬に最後に見舞ったとき、大河の話をしたら、目がキラッと光りました」

 元気なら、“みんな遅いよ”と陽気に言っただろう。
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