矢来町ぐるりとは？

【……この法律の施行の際その公訴の時効が完成していないものについても、適用する】とは、2010年4月27日に施行された殺人などの公訴時効を撤廃する改正刑事訴訟法の附則だ。
　1997年4月13日午前2時半頃、三重県上野市（現・伊賀市）のビジネスホテル「キャッスルイン上野」でフロント係の水野省造さん（48）＝当時＝が胸や腹など数十カ所を刺されて殺され、事務所の金庫から売上金約160万円が奪われた。
「三重県警は上野署（現・伊賀署）に捜査本部を設置。現場にはベルトと血まみれの軍手が残され、事件翌日にはホテルから約700メートル離れた植え込みから血のついたトレッキングシューズが見つかりました。しかし指紋は拭き取られ、目撃者も防犯カメラもなく、捜査は難航」（全国紙記者）
　法改正がなければ、昨年4月には15年の時効が成立していた――。
「本日、逮捕しました」
　亡くなった水野さんの姉である森昭子さん（77）のもとに電話が入ったのは今月1日のことだった。
「呆然としてしまい、後は何を話したのか……」
　とは昭子さんである。
　捜査本部が設置された殺人事件や強盗殺人事件で、発生から15年を越え、手配されていない容疑者が逮捕された、全国初のケースだ。

4兆7000億分の1

強盗殺人の容疑で逮捕されたのは、久木野信寛（くきののぶひろ）（43）。神戸の高校を卒業後、上野市や岐阜など職を転々とし、逮捕時は兵庫県の金属加工会社の工員で独身だった。犯行時はギャンブルで200万円の借金があった。