添えられた手紙には、「新鮮なのでお刺身でもどうぞ」とある。さっそく、薄くスライスして、わさび醤油でいただく。くさみもなにも無く、ほのかにあまい野生の味。「固まりを軽くあぶって、タタキでもどうぞ」とある。さっそく、薪ストーブの火の中で一度転がしておいて、包丁を入れると中から肉汁があふれる。口中でも同じくで、ほのかに香ばしい森林の血肉。それでもまだ大量の肉をどういただこうかと悩んだあげく、結論は「鹿肉のすき焼き」となった。合わせるのは玉ねぎとキノコのみ。味付けもごくシンプルに。
「いやぁ、ありがたいねぇ」
「もう猟ができないんなら、能登にでも引っ越してきて、こっちでどうかな。加賀の山には熊も猪もいるしねぇ」と勧める僕に、「いえいえ。ここにとどまって、ここがこれからどうなっていくのか見とどけなければいけません。暫くは鍛冶に専念です」と応える。なるほど。僕が使っている「鯵切り」と「菜切り」は、この人の作った刃物だった。もう一本大きめの「出刃」をとお願いする。
年がかわって、唐津から猪肉が届いた。その少し前、銀座の炉端焼きで同じ肉を味わった。味付けは、塩と胡椒だけ。炭火でいい具合になったのにむしゃぶりつく。連れて行ってくれたのは唐津の寿司屋の大将で、店の器も唐津。そこに唐津の猪。なんでも、唐津には猪とりの名人がいるんだそうだ。名人の名人たる所以は、絞めたあとの血抜きにあるらしい。その出来如何によって、肉の味は旨くも不味くもなる。「なに? これ…」と言ったきり、一同顔も上げずにひたすら食べつづける。以来、「あれが食べたい」「あれが食べたい」と言いつづけていると、やがて唐津から宅配便が届く。新鮮なので冷凍されていない。ブロックごとに真空パックされて、袋に「メス ウデ」「メス カタ」「メス ムネ」などと書かれている。皮にはまだ権太の体毛が、ひげそりあとのように残っていてなかなかワイルド。工房の女子たちは、それだけで悲鳴を上げている。さっそく、炭火に点火。肋骨の間に包丁を入れ、一本ずつにばらし、塩と胡椒のみ擦り込んで、火のおこるのを待つ。さきほど悲鳴を上げていた女子に一本くわえさせると、すぐに獣のように食いついている。これでいいのだ。
日本の野生もまだまだいけるぞ。あとは、熊が届くのを待つのみだ。
「いやぁ、ありがたいねぇ」
「もう猟ができないんなら、能登にでも引っ越してきて、こっちでどうかな。加賀の山には熊も猪もいるしねぇ」と勧める僕に、「いえいえ。ここにとどまって、ここがこれからどうなっていくのか見とどけなければいけません。暫くは鍛冶に専念です」と応える。なるほど。僕が使っている「鯵切り」と「菜切り」は、この人の作った刃物だった。もう一本大きめの「出刃」をとお願いする。
年がかわって、唐津から猪肉が届いた。その少し前、銀座の炉端焼きで同じ肉を味わった。味付けは、塩と胡椒だけ。炭火でいい具合になったのにむしゃぶりつく。連れて行ってくれたのは唐津の寿司屋の大将で、店の器も唐津。そこに唐津の猪。なんでも、唐津には猪とりの名人がいるんだそうだ。名人の名人たる所以は、絞めたあとの血抜きにあるらしい。その出来如何によって、肉の味は旨くも不味くもなる。「なに? これ…」と言ったきり、一同顔も上げずにひたすら食べつづける。以来、「あれが食べたい」「あれが食べたい」と言いつづけていると、やがて唐津から宅配便が届く。新鮮なので冷凍されていない。ブロックごとに真空パックされて、袋に「メス ウデ」「メス カタ」「メス ムネ」などと書かれている。皮にはまだ権太の体毛が、ひげそりあとのように残っていてなかなかワイルド。工房の女子たちは、それだけで悲鳴を上げている。さっそく、炭火に点火。肋骨の間に包丁を入れ、一本ずつにばらし、塩と胡椒のみ擦り込んで、火のおこるのを待つ。さきほど悲鳴を上げていた女子に一本くわえさせると、すぐに獣のように食いついている。これでいいのだ。
日本の野生もまだまだいけるぞ。あとは、熊が届くのを待つのみだ。