食・暮らし

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鰤と雪の白|能登 ごはん便り 赤木明登+赤木智子


 太平洋側から北陸を旅する人は、真冬の突然の雷に驚かされる。ぼく自身もそうだったけれど、雷は夏の夕立などの時に鳴るものと思い込んでいた。山野はすっかり落葉し、しんと冷え込むようになった深夜、何の前触れもなく「ドッ!カーン!!」と一発やられて、飛び起きる。初体験では霹靂(へきれき)とも気がつかず、慌てふためいてから呆然とする。きっと海の魚たちもそうで、巨体の鰤もさすがに驚いて大海から浅い湾戸に逃げ込むらしい。この落雷をさきがけにして雪が降り始めるので「雪おこし」とも、「鰤おこし」とも言われている。

 能登の東側は富山湾、西側は日本海、半島の海岸線をぐるりと回ると、沖に定置網が仕掛けられているのを各所で見ることができる。「大敷網」とは、魚の通り道になるところに垣網を張って、袋網の中に誘導する大きな仕掛け。これに雷に驚いた鰤がかかり始めるのと、雪の降りだすころが重なる。富山あたりでは、出世魚の寒鰤を年の瀬の贈答に使うらしいが、奥能登ではあまり聞いたことがない。この季節にスーパーの店先でも麹が売られるようになるのは、家庭で作るなれ寿しの一種「かぶら寿し」に使うため。塩漬けにした鰤と蕪とを挟み込んで麹漬けにすると、独特の酸味と旨味が醸し出され、冬の酒の肴として無類の逸品となる。毎年、自慢の「かぶら寿し」を頂戴し、その家庭にしかない味を堪能する。いまだ我家は、このなれ寿しに挑戦するほどの歴史を重ねていないが、いつか試してみたい。うちの畑には丸々と太った旨そうな蕪がもうできていて、脂ののった鰤がやってくるのを待っているのだ。雪の北陸には、白い「かぶら寿し」がよく似合う。

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