食・暮らし

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麦茶|能登 ごはん便り 赤木明登+赤木智子


 薄明かりの中で、ヒグラシが時雨のように鳴き始めると、春の鳥たちはどこに行ってしまったのかと懐かしむ。そういえば、夜明け前から渡ってきたばかりのトラツグミの掛け合いが聞こえていた。
 床を離れると、まだ盛りの前だというのに、もう大気に秋の気配が折りたたまれている。
 蓮の葉の上に横たわる甘い露。畑に出ると、いつのまにかヒグラシは鳴き止んでハルゼミの声。トマトの脇芽を摘んだあと、指にまとわりつくかぐわしさ。山端の灯火のように光が射し込むやいなや、土の水気が立ち上がり、むせかえるような一日が始まる。
 またもや勝手生えのカボチャが、収穫の終わったキャベツ畑を占領しようとしている。重いズッキーニを一本と、曲がったキュウリ。太った株から茎をむしり取ると、セロリの芳香に包まれる。春から待機していたサツマイモがようやく蔓を伸ばし始めた。この年は、シソとキンジソウがどうもいけない。オクラもやる気が今ひとつ。すっかり薹が立ったチリメンチシャとルッコラから、それでも食べられそうな葉を集め、篭を山盛りにする。枯れ始めたエンドウの密林をかき分けて、残ったサヤを探し求める。大食漢のナスの根本を掘って追肥をし、畝の草を引くと、背中からじりじりと焦げついてくる。立ち上がると目眩のするような草熱れ。遠くの梢でホトトギス。「テッペンカケタカ」。

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