小さい頃から、寝るのが大好き。早起きは大の付くほど苦手である。それなら早く寝ればいいのに。なかなかそうすることもできない。布団に入ってからも、どんなに眠くても、どうしても本を広げて、昨夜の続きを読まずにはいられない。このところずっと、藤沢周平の時代小説を読んでいる。なので、このところずっと、夜が更けると、私の頭の中は、ほとんど江戸時代である。それほど夢中になっている。
もうすっかり瞼がくっつきそうで、それでも必死にお話にしがみついていると、気がつくと、自分がよそよそと江戸の街の中を歩いていたりする。さまざまな商い。小間物屋、両替屋、油屋、古手屋、太物屋、口入れ屋……。
おいしそうなところでは、時代劇でお馴染みの団子屋はもちろん、甘酒屋、一膳飯屋、蕎麦屋など、食べ物のお店もたくさん軒を連ねる。面白いのは、「煮物屋」とか「煮豆屋」、「豆腐屋」なども登場する。「煮物屋」で、こんにゃくの煮たのをほおばったり、「煮豆屋」で丼一杯の煮豆を買って、おかずにする。「豆腐屋」は、豆腐を売っているだけではなくて、「油揚げ」なんかを焼いて熱々を食べさせる店でもある。それが何とも魅力的なのである。市場の屋台が楽しいのと同じで、一品だけのシンプルなお店の魅力だろうか。
実際には、歩いているのはお話の中のお武家さまであり、こんにゃくをほおばっているのも、町娘なのだけれど、精一杯の想像力で、江戸の町を自分の頭の中で歩いてみる。ある時は、「煮豆屋のおさよちゃん」に成りきってみたり。そして知らない間に、そのまま深い眠りに落ちていくのである。