春になると魚がやってくる。神戸、淡路、福山、三原と瀬戸内の街に住む友人たちから、つぎつぎに釘煮が届く。「いかなご」は春魚。その釘煮はこの地方の郷土料理だ。生きているのを見たことはないが、きっと海面が盛り上がるくらいに湧いているんじゃないかな。他の魚で、この魚島というのを見たことがある。そのときは何か、とてもいいものを見てしまった気分になった。生命が海からでも、土からでも湧き上がってくる感じは、春ならでは。今でも釜ゆでされた「いかなご」を買ってきて、それぞれの家庭で佃煮にする。送られてきたものを食べ比べると、醤油、砂糖、味醂、生姜などの配合が微妙に違っていて、その家の味というのがあるようだ。それぞれの家で育った子どもたちの舌は、その味を記憶していて、大人になって、遠く離れた土地で暮らすことになっていたとしても、この季節になると思い出すに違いない。「そろそろ、あれを食べたいな」って。すると、故郷から荷物が届く。中身はもちろん懐かしい味。そういう循環と繋がりのある家族、いいよなあ。