三年前の十二月三十日の午後。いつものように霙は、雪に変わった。蒸籠からあふれた水蒸気が納屋に満ちて、中にゆらゆらと人影が見える。餅米がそろそろ蒸し上がるようだ。岡本の親方と僕は、納屋の前に並んで立っている。
「いい柿の木やなぁ」
「いい木ですか」
「おう、いい。土蔵の屋根より高いところに実がいくつか残っとるなぁ」
能登半島地震でずれ落ちた土蔵の屋根は、まだそのままだ。
「今年は、忙しくてなんにも手がつけられなくって」
「赤木君、来年はいっしょに実を採らんか」
「いいですねぇ」
「でも、あんな高いところに、どうやればええやろかなぁ」
腕を組んだまま、天を仰ぐ僕たちの上に、錦に染まった大きな柿の葉が一枚、舞い降りてきた。雪に交ざって、ゆっくりと足下に着地する。