朝起きると、家の前に見知らぬ青年が立っている。リュックを背負っている。20代前半か。どうやってここまで来たのだろう。この家の近くには、駅はもちろんバス停すらない。ときどき汗にまみれて自転車でやってくる若者もいるが……。とりあえず、歯ブラシを口に入れたまま窓から声をかけてみる。
「どうやって来たの?」
「歩いて来ました」
「どこから?」
「東北から来ました!」
「はぁ?」
目的は聞かなくってもわかっている。まだ寝ているトモコさんに声をかける。
「また来ちゃいましたよ」
「何が?」
「若もん」
「弟子入り希望の?」
「たぶん。もう玄関の前に立ってるよ」