食・暮らし

  • 次へNext
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ワカメの芽のしゃぶしゃぶ|能登 ごはん便り 赤木明登+赤木智子


「ほんとうに、ぅまいもんは、四里四方の内にある」と、能登の人からよく聞いた。「ぅまいもん」とは、「うまいもの」のことで、最初の「ぅ」が、ほとんど発音されていないので、能登弁に慣れない耳には「まいもん」としか聞こえない。この言葉も含めて、二十数年前に初めて訪ねた奥能登で、年配者と会話すると、まるで外国に来てしまったかのように、何を仰有っているのかさっぱりわからない状態がつづいた。時間とともに、謎の言葉の意味が聞き取れるようになったころに、この土地深くに染みこんだ食文化のほんの片鱗が見えるようになってきた。それは、幸いと言っていいのかどうか、僕自身が能登に暮らし始めて、経済的に貧しく、日々の糧の多くをわずかな畑作と狩猟採取と贈与から得ざるをえなかったため、実体験的に知ることができたのだろう。「四里」とは、およそ十六キロ。その中心に暮らし、歩いて出かけて行って、一日のうちに戻って来られる範囲のことを言っている。その囲いのなかには、この場所の、まさにこの瞬間、しかない。巡る季節とともに、産み出される豊穣をじっくりと味わい、楽しむことこそが人生ではないか。ほんとうに豊かなものは、その外側にはおそらく無い。

  • 12
  • 次のページ 最後のページ
あわせて読みたい関連記事

  • RSSフィード
  • メールマガジン登録
  • じぇ! 「壇蜜」と「尾木ママ」が教育で“ハァハァ”|「週刊新潮」5月16日号

    話題

    じぇ! 「壇蜜」と「尾木ママ」が教育で“ハァハァ”|「週刊新...

  • テレビ番組観覧|イマイマイズム見聞録[第13回] 今井舞「新潮45」13年3月号

    話題

    テレビ番組観覧|イマイマイズム見聞録[第13回] 今井舞「新...

  • “タイの呪い”は解けず「日本人ボクサー」17連敗|「週刊新潮」5月16日号

    話題

    “タイの呪い”は解けず「日本人ボクサー」17連敗|「週刊新潮...

  • 東京都・日枝神社|ゴリヤクゴリヤク!~編集部員Sが行く、幸せになる神社めぐり~

    旅・街歩き

    東京都・日枝神社|ゴリヤクゴリヤク!~編集部員Sが行く、幸せ...

  • 捕手3人目「2000安打」谷繁元信のコワモテ伝説|「週刊新潮」5月23日号

    話題

    捕手3人目「2000安打」谷繁元信のコワモテ伝説|「週刊新潮...

  • 元キャンペーンガールは美しかった! 『藤牧秀健の顔整体マッサージ 上げたい人は、下げなさい!』撮影裏話

    話題

    元キャンペーンガールは美しかった! 『藤牧秀健の顔整体マッサ...

Copyright © SHINCHOSHA All Rights Reserved. すべての画像・データについて無断転用・無断転載を禁じます。